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2006/04/23

Garrow's Lawyers 1

法曹倫理の講義の第二回目。レークプレザント事件の話をした。
昨年もそうだったが、この話は学生を法曹倫理の世界に引き込むうえでとても力がある。

 事件の中身は、御存知のかたも多いと思いますが、このブログにおいでいただいている方々は、法律家とは限らないので、簡単に紹介しておきましょう。もっと詳しく知りたい方は、中村治朗元最高裁判事が「裁判の世界を生きて」(判例時報社・1989年)という本の79頁以下で詳細に紹介し、アメリカの法曹倫理と絡めてコメントされているので、そちらを参照されるといいでしょう。以下の記述は、これと以下の本を参考にしています。

The Moral Compass of the American Lawyer: Truth, Justice, Power, and Greed, by Richard A. Zitrin, Carol M. Langford,
Balantine Books 1999

事件:
1973年7月下旬、ニューヨーク州シラキュースにある美しいブレザントという湖のほとりに18歳の仲のいい男女4名がキャンプをしていたところ、ライフルを持った男が現れ、山中の森の中へ連れて行かされたうえ、その中の一人が殺されるという事件がおきました。なんとか助かったほかの3名は警察へ急ぎ、男がRobert Garrow という地元警察ではよく知られていた犯罪者であることが確認され、大捜査網が引かれたのです。

警察は、この事件の9日前に現場付近で起きた別の事件も心配していました。それはボストン大学の男子学生が同様の手口で殺害された事件で、被害者と一緒にいた友人のSusan Petz という女子学生が行方不明になっていたのです。

Garrow は当時、強姦罪で入っていた刑務所を仮出所中でパン屋で働いていたのですが、仮出所中の生活態度はまじめで模範的であると当局側にはみられていました。しかし、刑事事件に関わって逮捕されることがあり、以前に軽い交通事故で相談したことがあるFrank Armani 弁護士に弁護を依頼していました。その事件は10歳と11歳の女の子にわいせつ行為をしたというもので、Armani は冤罪ケースであるとして弁護活動を行っており、この件でGarrow 保釈中でした。

プレザント湖での殺害事件が発覚したのち、Armani は警察の要請を受けてテレビ出演し、行方が知れないGarrow に向けて自首を勧めるメッセージを送っています。しかし、Garrow が発見されたのは8月9日になってからで、姉の家にいるところを警察に捕まったのです。逮捕の際、逃亡しようとしたので警官に狙撃され、足と腕、そして背中に銃弾を受けて瀕死の重傷を負っています。

病院にいるGarrow の妻から弁護依頼を受けたArmani は、Garrow が殺人罪の弁護費用を支払う資力がないので、裁判所選任弁護の申請を行い、それが認めれています。日本でいうところの国選弁護ですね。
Armani自身は元検察官ですが、殺人事件の弁護を行った経験がなく、加えてマスメディアの注目の裁判となっていたため、もう一人、殺人罪の弁護経験の豊富な、Francis Belge 弁護士に共同弁護を依頼してます。

彼らは、弁護方針として、Garrow の犯罪行為が明白なので、心神喪失の抗弁(Insanity Plea)を主張するしかないと考えました。そこでプレザント湖の事件だけでなく、ほかにも異常な行動があることを主張するためにSuzan の事件やほかの事件のことを彼から聞きだそうとしたのですが、Garrow は何も覚えていないと答えるのみでだったのです。

二人の弁護士は、そこでGarrow に催眠術をかける方法を試みたところ、これが効果を発揮し、Garrow がすべての事件の内容を弁護士に語ったのです。Suzan が彼の手によってすでに殺されており、遺体は廃坑の中に隠されているのでした。しかも驚くことに、まったく弁護士の知らないAlicia Hauck という女性も、ヒッチハイク中に彼に殺害されおり、遺体はある墓地の管理小屋の近くに埋められていると告白したのです。二人の弁護士が現場に行ったところ確かに遺体は、Garrow のいう場所にありました。Belge弁護士は遺体の写真をとり、Hauck の遺体は獣よって食いちぎられており、頭部が遺体から離れてほかの場所にあるのを見つけたので、これを元の死体の場所に戻しました。

その後、二人の弁護士は、遺体を発見した事実を警察には報告せず、検察側との司法取引の過程で、Garrow を精神病院への監置処分にすることに同意すれば、行方不明になっている二人の捜索に協力する用意があると述べたのです。Garrow を刑務所に送るよりも司法取引に応じて、Garrow の精神状態に対して、より適切な対応の可能な、州立病院に送ることがニューヨーク州にとって好ましいことであると主張したのです。警察・検察から二人の所在を尋ねられても、知らないと答えました。また、Hauck の父親がArmani の事務所を何回か訪ねても、彼は面会を拒絶し、Suzan の父親が二人の弁護士に娘の様子を聞いても、知らないと答えました。

司法取引はアメリカ独特の制度で、公判の前に、検察と弁護士の間で有罪を認めれば、量刑を軽くするという交渉を行うのです。刑事司法システムの中で、無駄な審理・証拠調べを省くというメリットがあり、被疑者側にも量刑が軽くなるというメリットがあるのですが、事実審理抜きで、どんどん刑務所に囚人を送ることになるので、批判のある制度です。とくにパブリックディフェンダー(公設弁護士:日本の司法支援システムは、これを参考にしています)は、多くの刑事弁護をこなすために簡単に司法取引で有罪を認めるといわれています。

さて、Garrow の事件は、司法取引が成立せず、公判が開かれました。翌年の1974年6月に開かれた公判でGarrow が証言台に立ち、Suzan とAlicia の殺害の事実と様子を語りました。二人の弁護士の勧めによるものです。同時に遺体の場所も、警察に告知されました。
そして、二人の弁護士は、Garrow の心神喪失の抗弁を主張しました。

6月26日、陪審は2時間弱の審議の末、弁護側の心神喪失の抗弁を排斥し、第一級殺人罪で有罪の評決を下しました。

続く

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コメント

ひまわりてんびんさん、はじめまして。
この事件は、いくつかの法曹倫理の論点が絡んでいて、興味深いものです。
わたしもまだ充分に整理し切れていません。なんにんにかの熟達した弁護士に聞いたところでは、日本ではここまで徹底した弁護活動をする弁護士はいないのではないか、というものです。これも評価が難しい。また書きたいと思います。

投稿: satosho | 2007/04/15 12:07

初めてお邪魔させていただきます。

この水曜日、ロースクールで法曹倫理(私どもの学校では「専門職責任」と言います。)の第1回授業を受けてきました。

レイク・プレザント事件を扱いました。内容について書かれたものはないかと探していたところ先生のブログを拝見し、紹介させていただきました。TBもさせていただきます。

これからもお邪魔させていただきます。

投稿: ひまわりてんびん | 2007/04/14 22:28

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