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2006/05/01

Garrow's Lawyers 3

Armani とBelge の二人の弁護士に対する刑事訴追、懲戒申立ては、一応、二人に対してお咎めなしという結果でした。ここまでは前に書きました。
 ここで少し、弁護士の職業上の役割を敷衍させてください。前回、書いたようにこの事件の弁護活動には、職業上の道徳と人間としての道徳の対立的契機があるのですが、職業上の道徳の内部でも、対立的契機があります。

 弁護士は、依頼者のために熱心な弁護(Zealous Advocasy)をすることがアメリカでは求められています。これはそのような議論があるというだけでなく、古くからアメリカの弁護士倫理規範に明文で規定されているものです。依頼者の利益のためにただひたすらに努力をする、そのように期待される役割を、党派的役割と呼んでいます。弁護士個人の趣味や思想によらず、依頼者が誰であれ、たとえGarrow のような社会的に極悪非道の人間と思われる人物であれ、いったん弁護士としてついたら、熱心に弁護する。最低の人間だからといって弁護に手を抜いていいことにはならない。これも一個の見識です。

 ふたりの弁護士は、Garrow の心神喪失を法廷で効果的に主張するために行方不明者の死亡の事実と遺体の場所を秘匿した面があります。しかしそれは別にして、もしGarrow から聞いたこととしてこの情報を開示すれば、彼に新たな刑事立件が起こされることは明らかであり、彼に不利益となります。
 依頼者のために熱心な弁護を行うことが弁護人の職務だとすれば、依頼者から事件の事実関係をすべて打ち明けられる必要がありますが、打ち明けられた事実関係を弁護士が外でぺらぺら話してよい、などというシステムでは、とうてい安心して依頼者は弁護士に事実を話す気にはならないでしょう。この意味で守秘義務は完全に守られる必要があります。依頼者のためのものであるとすれば、依頼者の同意があれば開示してよいということにもなりそうですし、アメリカではそのように考えられているようですが、フランスでは、同意があっても開示してはならないとされているそうです。弁護士の守秘義務は、それ自体が制度として維持されるべき公的な側面を有していると考えられているからです。
 いずれにせよ、Belge に対する刑事訴追や二人に対する懲戒申立てを排斥したニューヨークの裁判所当局の見解は、守秘義務を強調しています。これは法曹界の中には、受け入れられやすい見解です。

 他方、弁護士は社会的正義の実現を要求されます。日本でも同じです。社会的正義の中身になにを盛り込むのか、それについてはさまざまな意見がありうるでしょうが、みずからが社会的不正義と思うことを実行してはならない、これも職業倫理でしょう。正義と不正義のあいだには、どちらともいえない広汎な領域があるように思いますが、ここでは分かりやすさをもとめて単純化しています。正義の実現に奉仕する弁護士の職魚的役割は中立性と呼ばれています。

 この中立的役割は、事件に仲裁人や調停人として関与するさいの役割として立論されるときもあるのですが、依頼者のための代弁活動の中に党派的役割と同様に期待される役割です。依頼者のために党派的に活動することが、なぜ中立的でもありうるのか、伝統的な説明は、党派的弁護こそが、当事者敵対的(Adversary)な訴訟制度を根幹から支えるのであって、それゆえに社会的正義に奉仕するのである、と説いています。

 しかし、遺体を発見したり、犯罪行為を発見したときにそれを公表するのが公益だとすれば、弁護士としては、依頼者から離れて、むしろそれらの事実を告知することが職務ではないか(社会的正義にかなうのではないか)。検察当局に開示しないのは別にして、遺族が尋ねても開示しないのは、社会的不正義ではないか。ニューヨーク市民の素朴な想いは、職業倫理的な言葉に置き換えれば、党派的弁護が中立的弁護と対立すると主張しているのです。
 党派性と中立性という専門家に対する社会的期待の衝突、そうした難問をこの事件の提起したのです。

 専門性と人間性、党派性と中立性、これらの「対立」「二項」原理は、調整可能でしょうか?、あるいはすべてを満足させた活動は弁護士には可能でしょうか。大変に困難な問題を、この事件はわかりやすい形で提起したのです。

 今回はいささか抽象的でした。すいません。次回はその後のエピソードです。まだ続きます。

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