Garrow's Lawyers 5
みなさんなら、この事件を受任して、Garrow から告白を受けたら、どう行動しますか。私ならどうするだろうか。こんな事件は扱いたくない、そう思い「逃げる」のではないかと想像します。これは弁護士としては、褒められた態度ではないと思いますが、日本の平均的な弁護士は、そうするのではないかと想像します。
私は、講義では学生のみなさんに、このArmani とBelge の二人の弁護士は、社会的非難にもヘコタレルことなく自己の職業倫理を全うしたすごい弁護士だと紹介しています。実際、そうだとは思うのですが、このblogでいろいろ書いていて、いくつか疑問が出てきました。
1)一番の素朴な疑問は、本当に催眠術で告白したのか?、というものですが、こればっかりは確認のしようがありません。Almani はこの事件を素材にして本を出版していますと前に書きました。最近、入手しましたので、見てみましたが、たしかに催眠術を使ったと書いてあります。100pあたりです。

Alibrandi, Tom and Armani, Frank H. (1984) Privileged Information. New York City, NY: Harper Collins
でもねえ、Belge もいないところで、Armani とGarrow の二人だけで実施したということですし、Garrow は既に死亡しており、Armani だけがそういっているのですから、誰も他に確認できないのです。Garrow の告白のくだりは大いなる謎です。
2)Garrow は精神病だったのか?
二人の弁護士の弁護方針は、これを主張することです。犯罪事実はもう否定しようがない、そんな状況で弁護するとすれば、情状か責任性を争う、この方針は弁護士なら当然の選択肢でしょう。弁護士たちは事前協議の司法取引で、精神病であると強く主張し、刑務所に入れることが本人にとっても社会にとってもプラスにならないと主張しています。と同時に、精神病院での医療処分で済ませるのであれば、行方不明者の捜索に協力すると提案しています。まずこれが私には疑問です。精神病の主張と、行方不明者の捜索とは、取引材料としてリンクしうるものなのか。精神疾患を主張するのであれば、行方不明者の件とは無関係に司法取引を進めたほうが検察当局に説得力があったのではないか、そんな思いがよぎりますが、所詮、これは後講釈です。
ちなみに司法取引はアメリカのロースクールで交渉論を教えるときに必ずメンションされるもので、私がまえに留学していたときにも交渉論の担当教員二人のうち一人はもと検察官でした。もっともレイク・プレザントの時代には法的交渉論など、法律家の頭の中にはないでしょうから、二人の弁護士は自己の経験と勘だけを頼りに司法取引をしていたのでしょう。
司法取引が不調に終わったので、弁護士は、Garrow に法廷で生い立ちからの人生を縷々(るる)証言させています。これは当初予定ですから、そのこと自体は驚くに値しません。幼いころから両親に虐待されていた、11歳ぐらいから犬や牛、羊とセックスをしていた、空軍をやめたときに知合の弁護士から性的に虐待された、濡れ衣の強姦事件で8年服役した、などなどの話のあと、この事件で、被害者を殺害した模様を語りましたが、およそ聞くに堪えない(書くに耐えない)殺害の模様が法廷で証言されたのです。詳細は書きません、モラルコンパスを読んでください。結局、陪審は、心神喪失の抗弁を否定しました。私は、そうだろうなあと思います。弁護士たちの願いは、この聞くに堪えない異常な話を聞いて、陪審員が、Garrow を異常な人間であると思うだろう、その点に望みをかけていたのですが、リスキーでした。精神疾患に理解のある専門家ばかりが陪審を構成していたとしても、法廷という場でこの話を聞けば、Garrow に対する敵意をやはり抱いてしまうのではないかと思います。
法廷という場ではなくて、もっと早い段階でGarrow 自身の告白を、彼にその後の手続展開の予測を説明をした上で公表し、彼の精神疾患をより時間をかけて鑑定するべきである、これもいまという時代から振り返った後講釈でしかないのですが、そう思うところです。
もし彼が公表を拒めば、どうするか。刑事弁護士としては、告白の公表はできない筋合いでしょう。では、公表しないまま、法廷に臨んで、彼が偽証するのを許すのか、これもできません。ただ偽証は許されないまでも、行方不明者の所在は、公訴された犯罪事実ではないのですから、その点は関連ナシとして証言を拒否する、その異議申立てを連発する、それは可能でしょう(陪審や社会の非難を浴びるかもしれませんが)。
また、公表しないで事前に精神鑑定を受けさせることができるか、これも難しいところでしょう。鑑定材料自体が不正確な前提に立つことが明らかだからです。Garrow が事前公表を拒めば、このように弁護士としては万事休すです。手がありません。
しかし、この事件では、彼は公表を拒まなかったのではないでしょうか。法廷で証言しているのですから。手続きの見通しの説明を、どう彼が聞いていたのか、そこが知りたいところです。
主題にもどります。彼は精神病だったのでしょうか。たしかに性的衝動に弱いタイプであったことは事実でしょう。しかし、この事件では、Garrow とその家族の語りが少ないのが特徴です。Garrow その人は、極悪非道の連続レイプ殺人犯人として描かれるだけで、彼のほかの面はあまり言及されていません。ここでまとめてみましょう。
彼は、仕事ではまじめなパン職人でした。日本でいうところの仮釈放の身分でしたが、そのまじめな勤務ぶりは、保護観察当局から賞賛を受けていたのです。
彼には、妻も子供もいました。そして、瀕死のGarrow に代って弁護を依頼したのは、妻でした。刑務所から脱獄するときに、ラジオとピストルを差し入れしたのは、彼の子供です。この差し入れは褒められたことではありませんが、子供が自分が刑を受けるのを覚悟で、そこまでするのは何故でしょうか。極悪非道の見境なく人を殺す人間として自分の父親を見ていたのでしょうか。
レイクプレザント事件直後の逃亡のときには、Garrow は姉の家に潜んでいたということです。姉は、嫌がらなかったのでしょうか。なぜ警察に通報しなかったのでしょうか。
Garrow が精神病であったと主張することは肯定するとしても、その彼の人となりの描き方は、二人の弁護士がやったように異常な人生経験を経た、異常な人間であると描くだけでなく、別のストーリーがあったように、私には見えます。精神病であったのかもしれません。しかし、二人の弁護士が描いたような(あるいは描こうとした)精神病者ではなかった可能性があります。
Garrow の語りが少ないと見ることについては、法廷でさんざん証言しているではないかと反論される方もいらっしゃるでしょう。たしかにそうです。しかし、法廷での証言は、語りとしては特殊な空間であることに留意してほしいのです。証言台は、「語る」場所ではなくて「語らされる」場所です。そこでの語りは、独特のルールに支配されており、いうことすべてが常に反対尋問を予定されています。よく被害者が証言台にたったとき、彼女は法廷で再びレイプされると言われますが、このことは加害者も事情は同じなのです。
司法取引においても、証言の準備においても、もう少し社会の共感を得られるような弁護がありえたのではないか、そんな思いがしています。
しかし、これもいまだからこそ言える事であって、事件当時に、Garrow にもいい面があるのだ、などと主張するのは難しかったのかもしれません。それはそうだと思います。
3)どうして証言のあと公表したのか
なぜGarrow が証言したアトに、自分たちが前から知っていたと記者会見で公表したのか、それも評決の前に。これは、法曹倫理との関係で最大の謎です。
Garrow 自身に法廷で語ってもらう。事実関係を開示してもらう。それが陪審にインパクトを与える。そうした弁護方針が採られていたとしましょう。であるのなら、それを徹底すればいい、自分たちは事前に知っていたと、記者会見までして公表してしまっては、すべてがオジャンになるのではないか。そう考えます。隠していたという非難が当然に生じるからです。Garrow からは事前に聞いていなかった、彼の証言はまったく彼の自発的な意思によるものである、そう主張してこそインパクトがあるというものではないでしょうか。
これもしかし、記者会見を行わざるを得なかったのでしょう。法廷の証言内容があまりにもすごいもので報道関係者がほってはおかなかったでしょう。そして、いったん記者会見をしてしまえば、証言の内容からみて、事前に弁護士が聞かされていなかったと主張するのは、いかにも不自然ですし、その程度の事前準備しかしていなかったのかという批判も受ける可能性があります。またGarrow 自身への非難も生じる可能性があります。なにより事実に反しています。依頼者・弁護士間の秘匿特権を行使して、なにを聞かれてもノーコメント、これしかなかったように思えます。しかし、これもすごいストレスのかかる仕事です。
彼は事前に語っていたのだ、それを弁護士が公表していなかっただけなのだ、そう社会に弁明することは、あながちおかしなことではないでしょう。しかし、この記者会見はGarrow の証言の価値をマイナスにしたように思います。そして弁護士自身も非難の対象にしてしまったのです。
ではどうすればよかったのでしょうか。やはりトライアルが開かれる前に、行方不明者の所在を開示し、鑑定などの方針を決めておくべきだったのではないでしょうか。また法廷という場でいきなり証言させるのではなく、事前開示をすることで「語り」をもっと増やす努力をすることができたのではないかと考えます。
事前開示は、被告人に自白を強要し、不利益を強要するもので刑事弁護士のとるべき手段ではない、その意見はもっともだと思います。しかし、そうだとすれば、法廷でも証言させるべきではないのです。繰り返しになりますが、行方不明者の件は立件されていないのですから、この刑事手続きでは無関係だといいうるのです。無関係なことの証言は強制されないでしょう。二人の弁護士がGarrow から告白を受けていたとしても、彼らが受任した事件ではない別件なのです。別件である事件について、触れないのであるならば徹底して触れない、そうした手法もとりえたのではないかと考えます。
ただ、無関係だといっても、被害者が瀕死の重傷状態でまだ生きているとか、犯罪がこれから行われようとしているとか、そんな場合は別です。これは、なにはともあれ救出の努力をすべきです。二人の弁護士もこのことは否定していません。同じ理由から、Garrow がピストルを所持して脱獄したときに、その脱獄方法を捜査当局にAlmani がペラペラしゃべったことも理解できます。従前の不開示とは、状況が違うのです。ここでは、いままさに犯罪が行われようとしているのです。職業倫理は、犯罪行為への加担を許容するものではありません。
さて、私は、刑事弁護に詳しくありませんし、アメリカの訴訟手続きにも音痴です。以上のことは、的外れな見解かもしれません。また以上の疑問があるとしても、二人の弁護士が、アメリカという場所で職業倫理をまっとうしたすごい弁護士たちであるという評価は変りません。問われるべきは職業倫理のありようだと思っています。次回は、その点を触れましょう。
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コメント
読み返してみておかしなところがあるので、訂正しました。難しいですねえ。
投稿: satosho | 2006/06/03 17:23