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2006/07/07

民法709条と親の監督責任(2)

 (1)の続きです。昨日紹介した判決の意味を、もう少し考えてみたいと思います。

 未成年者や障害者が、民事責任を負担する能力がない場合(責任無能力といいます)、民法714条に基づいて保護者の監督責任が追求されることがありますが(条文は末尾に貼り付けておきますね)、未成年者や障害者が責任能力がある場合であっても、保護者は民法709条に基づいて責任追求を受けるときがあります。このことを宣言したのは、昭和49年3月22日最高裁判決民集28巻2号347頁なのですが、この判決にいう監督義務の中身については、結果回避義務(結果が生じたら義務違反と糾弾されます・これだと未成年者や障害者は、家の中に閉じ込めるしか保護者には責任予防の現実的選択肢がないでしょう)を課したものであると読む学説(有力学説だそうです)から、いやそうではないと主張する学説があったと言われています。下級審の判例もゆれていたようです。

 先に紹介した平成18年の判例は、未成年者や障害者に責任能力が認められる場合でも、保護者は民法709条の適用によって監督責任があるとする点では、昭和49年判決を踏襲していますが、その適用範囲を無媒介に拡げようとする有力学説や判例の傾向に歯止めをかけたものと理解されています。判タや判例時報の解説は、そう書いています。

 私もこの裁判の判断を支持したいと考えます。709条の責任追求に当たっては、被害者側が監督責任者の義務違反を具体的に主張・立証すべきですが、これは一般の不法行為と同じであって、これを親子関係において特に別異に考える理由が乏しいからです。親が社会的に認められる当然の義務を怠っていた場合(たとえば、虐待をしていた、泥棒をさせた、食事を与えなかったなどなど)その結果として、こどもが第三者に損害を与えた場合は、その賠償の責任があるというべきでしょう。しかし、どのような義務があり、それを実際に怠っていたのかどうか、についての義務の内容と違反の詳細についての立証責任は、損害賠償請求者側にあるというべきです。

 次なる問題は、未成年者や障害者に責任能力がない場合の民法714条の責任だと考えます。こちらはより問題をはらんでいます。親は、子供の責任が追及された場合に、子供には責任能力がないと主張しがちであって、子供や障害者の責任能力の有無を充分に争う機会が実質的に保障されていません。つまり714条か709条かの土俵の設定ができないことが多いのです。今回の平成18年判決では、子供が成人に近い年齢であったことからこの点は、親側に事情が良かった(つまり責任能力があることを主張しやすかった)ようです。

 もし民法714条で土俵が設定されると、監督義務を尽くしていたことの立証責任は一方的に親側に要求されるのですが、これは非常に過酷な手続き上の責任を親側に負担させているように思います。なにか監督に問題があったということは主張しやすいのですが、とくに問題はなかったということを子供が生まれてから数十年にも及ぶ療育生活の中で親側が立証することはとても過酷な立証負担となります。
 そもそも民事責任能力が認められないような場合の未成年者や障害者には、教育機関か福祉機関が親以外にさまざまな形で関わっているのですが(関わっていないとすれば、それ自体が問題です)、その社会環境の中で「履行できる監督義務」がなんであるのか、充分に検討・意識する必要があるでしょう。監督する「法定の義務」についても単純に親だけだと考えてよいのか、また精神保健福祉法の保護者の規定から「自傷他害防止義務」が削除されたことをどう評価するのか(知らない人が多い)、民法の教科書類を読んでもあまりメンションされていません。身近な問題なのに謎だらけ、です。
 さしあたり民法714条にいう法定の監督義務というものは厳格に解釈されるべきであると考えますし、立証過程の運用にも工夫が必要かと思います。要件事実的思考だけではとても手続き実相に迫れない。だんだん709条から離れてしまいますが、紹介した判例を考えていくと、ここまで触れたくなります。社会の現実を見渡せる、いい判例です。

-----条文を探す手間をはぶくため
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

(近親者に対する損害の賠償)
第七百十一条 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。

(責任能力)
第七百十二条 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

第七百十三条 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

(責任無能力者の監督義務者等の責任)
第七百十四条 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

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コメント

 2014年、長崎県佐世保市の高1女子殺害事件にはかなり衝撃を受けている。
 私が思うには、この事件は弁護士で地元の名士である親の監督・保護責任が重要視されなければならないと考える。酒と女に現を抜かす父親は、種々危険な兆候を示していた自分の娘を自己の監視下に置くべきところを、あろうことか、己の面子を保つために、厄介者のように遠ざけてしまった。その責任は重大だ。
 「精神保健福祉法」の保護者の規定から〈自傷他害防止義務〉が削除されたことには納得がいかない。

投稿: 白石 外平 | 2014/08/05 11:17

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