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2006/07/31

証言の心理学

証言の心理学―記憶を信じる、記憶を疑う
高木 光太郎著 (2006)中公新書

面白い本である。冒頭に1908年に出版された「証言台で」という本の中に掲載されている犯罪学者リスト教授の実験というのが紹介されている。授業中の教室に男が入ってきて、学生と口論をはじめ、ピストルの発砲が行われて騒然となるというものだ。

 これはヤラセで、出席学生はいまみたできごとをレポートするように教授から要請されるが、同じ出来事をみた学生たちのレポートが結構違っている、人間の記憶とはかくのごとき脆いものだ、という話である。わたしは、ジェロームフランク裁判官の「裁かれる裁判所」を思い出した。この本にも似たような教室実験の模様が書かれていたはずだ。結構、証言の心理学の歴史は古いのだ。

ロフタスの衝突実験、自民党本部放火事件を題材に記憶の脆さ、ネットワークスする記憶を読者に分かりやすく理解させ、甲山事件での、山本登志哉のフィールド実験、狭山事件の浜田寿美男の供述分析、そして足利事件における著者の少年探偵団ごっことそれを経て生み出されたスキーマアプローチ、と話は進んでいく。現実の著名事件を素材しにて、法と心理学の奥の深さを味あわせてくれて、読者を飽きさせない。

 素材は、すべて刑事事件であるが、この本に述べられていることは、基本的に民事の証言にも妥当すると思う。裁判といえば証言、これは切っても切り離せない。
 民事でいえば、鑑定人と専門委員の違いに想いが進む。ロフタスの専門家証言は、どちらかといえば専門委員的であり、浜田寿美男の仕事は間違いなく個別事件の鑑定である。専門委員と鑑定の区別は実際には微妙であるが、ロフタスの苦悩や心理学のありようについての本書の叙述は、この問題を考えるときにとても参考になりそうだ。
 陳述書の作成が常態化しており、しかもその作成過程が明確ではない。陳述書についての議論も、こうした心理学の知見を基礎にして行われると、かなり違ったものになるかもしれない。やはり相当程度の共同想起(記憶のネットワーク)が起こっていると見たほうがいいだろう。

著者自身による本書のキーワードは次の三つ。
1)記憶の脆さ(記憶の欠落、記憶の想像)
2)ネットワークする記憶(共同想起)
3)正解のない世界(特権的存在者)
   実験心理学 供述分析 スキーマアプローチなど

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