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2006/08/12

事実上の後見人(訴訟)続

 昨日紹介した、最高裁平成7年11月9日判決(事件番号:平成4年(オ)第735号)は、訴訟行為(提訴・応訴や訴訟活動)については、契約と同じ考えを採用しないで、信義則の適用(追認拒否の否定=つまり行為を有効にすること)を否定することを宣言している(うわ、3重否定だ、分かりにくくてごめんなさい)。これは訴訟上の行為と私法上の行為を区別するひとつの考えたかを示したもので、異論はあるだろうが分からないではない。
 結果として、訴訟においては、事実上の後見は否定されるのである。

 だが、この判例は、そのほかの点で、理解しにくいところがある。

1)まずなによりも再審判断の手順が、分かりにくい。
 再審なんて、実際の事例も民事においてはほとんどないので、講義でもめったに説明しない。一般の教科書では、民事においても再審開始の判断と再審そのものの審理を区分している(なかには3つに分ける見解もあるらしいが、それは横においておこう)。
 この判例は、再審申立てを却下した地裁や高裁の判断を破棄したのであるから、開始決定について再考させるために、あるいは少なくとも再審審理をするために地裁に差戻す、そう考えたいところだ。ところが、再審開始を自判(最高裁みずから結論を出す)し、加えて再審審理それ自体を行ってしまい前訴を却下することも自判している。二重の意味で事実審を省略してしまっているのである。

2)この事件の再審事由は、姉Aに代理権がなかった点にあり、姉Aも追認せずに無効であると主張し、信義則適用もしないのであるから、前訴(第2訴訟)は、無効であり民訴338条第1項3号(現行法)に該当する。「したがって」第2訴訟は不適法である。
 しかし、なぜ「したがって」であろうか。第2訴訟の判決当時には、たしかに不適法であったが、再審申立時には、姉は後見人に就任しており、その資格で再審を申し立てているのである。であるなら再審理(実体の審理)をすべきであって、第2訴訟の当時不適法であったから、再審の時点で実体審理をすることが不適法といえるのか、疑わしい。ところが兼子条解民訴(松浦)1284pには、再審事由が職権調査事項である場合、たとえば本件のように代理権欠缺の場合には、当事者の申立てを越えて判断をなし、敗訴部分を取り消すだけでなく、全部を取り消して訴を却下すると書いてある。再審原告にとって、こうした扱いによって、なんのメリットを受けるのかよく分からないが、却下事由を補正した上での再訴を認めるのであれば、メリットがあるといえよう。

3)ところで、被告Y側が第2訴訟で敗訴していて、再審の申立てをしていたら、本件の最高裁判決(第2訴訟は再審で却下)の結論は、分かりやすい。しかし、相手方の代理権欠缺を理由とする再審申立ては認められないと条解に書いてある。1271p。よく分からないが、反対の判例もあるようなので、不明瞭な部分なのであろう。
 しかしその場合でも、Xは却下事由を補正して(つまり姉Aが後見人として)、あらためて訴訟提起ができるはずである。であるならば、本件のように姉Aの再審申立てを容れて姉Aの第2訴訟(名前は弟X名義)を却下したのであるなら、やはり再度Xの訴訟提起ができないとおかしい(第4訴訟が起きることになる・※6)参照)。

4)そのようなことが当然に予想されるのであれば、再審開始を最高裁が判断して第一審に差し戻し、再審の実体審理を行えばよいではないかと思うのであるが、どうであろうか。その場合は、再審の時点で代理権欠缺が治癒されたとみることになる。手続途中で治癒される扱いは実際に見られるところである。

5)この事件の中心は、後見人でなければ訴訟行為ができないことなど露知らずに、弟の名前で「代行行為」を繰り返していた姉が、第2訴訟の敗訴判決を受けてから第一審を担当したL1弁護士ではなくL2弁護士に相談にいったら、禁治産申立てをしなきゃだめだと諭され、その手続きをしている間に控訴期間が徒過して一審敗訴の判決が確定してしまった点の救済にある。

 L1弁護士に控訴してもらったらいいじゃないか、という考えもあるかもしれないが、L1弁護士は、委任権限のない姉から受任しているのであるから、この弁護士も無権限であることに変わりがない。

6) 結局、差し戻した上で第2訴訟の再開を意味する再審審理に踏み込むのではなく、第二訴訟を一旦全部却下して、最高裁は、姉の訴訟行為は、訴提起段階から、すべて無効という。たしかに、そのほうが姉の無権限行為をすべてご破算にできるメリットもある。では、再度出発できるか。時効や除斥期間の問題があるが、昭和五三(1978)年一二月四日が事件の時であり、そこから起算すれば除斥期間までには、この最高裁判決からまだ数年の期間がある。時効は、難問であるが、姉の後見人就任時(平成2年)から起算すればアウト、本件最高裁判決の時点から起算すればまだ3年ある、ということになる。この事件の最高裁判決は、時効の点についてはまったく触れていないが、本人(弟X)が有効かつ現実的に裁判上の請求ができるようになった時点であると考えれば、本件最高裁判決の時点が起算点ということになろう。そう考えないと、この最高裁判決はまったく掛け声だおれの意味のない判決になってします。

 それにしても、現実はどうだったんだろう。この判決のあと第4訴訟が提起されているのか、調べてみたい気もする。

7) また、この種の事件の相談をうけた弁護士の難しさも伝わってくる。成年後見をまってなどといっていると時間がかかる、場合によれば時効が過ぎる。かといって事実上やるわけにもいかない。だいたい、事実上であれ、成年後見人としてであれ、本人の状態や提訴意思の確認をどうすればいいか、まったく保護者や成年後見人の意向だけで動くのでは、一応のエクシュキューズは立つのかもしれないが、あまりに形式的である。障害者本人の意思決定をどうサポートするのか、このあたりが、実は一番難しく、かつ、多くの弁護士が苦労しているところであろう。

8) なお、本判決の平成7年当時は、まだ旧民訴の時代で現行民訴第2条は存在していなかった。信義則の適用が明文に入った現行民訴において、この最高裁判決の論理がなお踏襲されるかどうか、不明だといわざるを得ない。

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コメント

条解民訴の記述を加えて、文章を訂正しました。

投稿: satosho | 2006/08/12 23:01

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