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2006/08/11

事実上の後見人(訴訟)

事実上の後見人について、先日の判例に加えてさらに1件、紹介しよう。
 最高裁平成7年11月9日判決  事件番号:平成4年(オ)第735号
  家庭裁判月報48巻7号41頁 裁判集民事177号107頁

 この事件は、姉Aが事実上の後見人として精神分裂病に陥った弟Xの面倒を見てきたが、弟に暴行を加えて障害を生じさせたYらに損害賠償をするにあたって弁護士に委任して調停や訴訟を提起したが、調停は不成立、訴訟は訴の取り下げの擬制(第1訴訟)で終わった。そこでさらに訴訟を起こし、途中からL1弁護士が関与したが、消滅時効が成立しているとして敗訴し確定した(第二訴訟)。第二訴訟の確定前に別の弁護士L2に相談したところ、禁治産宣告を勧められ、その手続きをとり、弟Xの後見人にAが就任し、改めて第二訴訟の無効を主張して民訴420条1項3号(現民事訴訟法338条1項3号)を理由に再審申立てを提起したというものである(第3訴訟)。第一審は、第二訴訟の無権代理人であったAが、後見人就任後に、その訴訟の無効を主張することはできないとして、Xの第三訴訟の再審申立てを却下。第二審もこれを維持したが、最高裁は、第三訴訟第一審判決を破棄し、再審事由があるとして、第二訴訟第一審判決を改めて却下した。

 この事件は、最高裁判例データベースには収録されていないので、少し詳しく以下に引用する。ややこしいのでコメントは別にします。

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主   文

原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

那覇地方裁判所沖縄支部昭和六三年(ワ)第二九八号損害賠償請求事件について、同裁判所が平成元年四月二五日言い渡した判決を取り消し、右事件の訴えを却下する。

訴訟の総費用中、前項記載の事件に係る費用は甲野春子(沖縄県沖縄市諸見里〈番地略〉)の負担とし、その余は上告人の負担とする。

理   由

上告代理人L2の上告理由第一について

一 本件は、那覇地方裁判所沖縄支部昭和六三年(ワ)第二九八号損害賠償請求事件(以下「前訴」という。)につき、同裁判所が平成元年四月二五日に言い渡した判決(以下「前訴判決」という。)に民訴法四二〇条一項三号の事由があるとして申し立てられた再審事件である。

記録によると、本件訴訟の経過等は次のとおりである。

1(一) 前訴は、昭和六三年一一月二八日、上告人を原告とし、被上告人乙山二郎、同乙山三郎及び承継前被上告人亡乙山一郎の三名(以下「被上告人ら」という。)を被告として提起されたものであるところ、その内容は、「上告人は、昭和五三年一二月四日午後一○時ころ、被上告人らから暴行を受け、頭部裂傷などの傷害を受けるとともに、その後遺症として精神分裂病の状態に陥ったLとして、民法七〇九条に基づき、治療費、慰謝料の合計三一三七万三一二〇円とこれに対する遅延損害金の支払を求めるものである。

(ニ) 那覇地方裁判所沖縄支部は、平成元年四月二五日、前訴につき、当該損害賠償請求権は既に時効により消滅しているとの理由で上告人の請求を棄却する旨の前訴判決を言い渡し、この判決には控訴の提起がなく、同年五月九日の経過により確定した。

2(一) 上告人は、昭和五四年ころから自閉、無為、徘徊、被害妄想、幻聴などの症状を呈するようになり、同年、精神分裂病と診断されて精神科の病院に入院し、以後入退院を繰り返しているものの現在まで症状は改善していない。

(ニ) そのため、上告人の実姉である甲野春子(以下「春子」という。)は、弁護士に依頼して訴状を作成してもらい、春子自身がその訴状に上告人の名を署名し、押印して、上告人のために前訴を提起した。この訴訟には、途中からL1弁護士が上告人の訴訟代理人として関与するようになったが、同弁護士に訴訟の追行を委任したのは春子であり、同弁護士は一度も上告人と面接しなかった。

なお、前訴以前にも、昭和五六年には上告人名で被上告人らを相手に調停が申し立てられ、これが不調になると、翌五七年には被上告人らに対して前訴と内容を同じくする訴訟が提起されたが(この訴訟は、上告人が口頭弁論期日に出頭しなかったため休止となり、そのまま訴えの取下げが擬制されて終了した。)、この調停の申立て及び訴えの提起は、春子が他の家族とも相談した上で上告人のために弁護士に委任して行ったものであり、上告人は、当時調停等の意味を理解できる精神状態にはなかった。

3(一) 前訴判決の言渡し後、春子は、控訴をしようと考え、本件の訴訟代理人であるL2弁護士に相談した際、同弁護士から、上告人について禁治産宣告を受け、上告人の後見人に就職した上で訴訟委任をするよう指示された。

(ニ) そこで、春子は、那覇家庭裁判所沖縄支部に上告人の禁治産宣告及び後見人選任の申立てを行い(同裁判所平成二年(家)第一三二号、第一三三号事件)、平成二年五月二二日、同裁判所は、上告人を禁治産者とし、春子を上告人の後見人とする旨の審判をし、春子が上告人の後見人に就職した。

(三) 春子は、同年五月二九日、上告人の後見人としてL2弁護士に本件再審の提起、追行を委任し、同日、本件訴訟が提起された。

二 原審は、右事実関係の下で、前訴の訴え提起及びその後のL1弁護士に対する訴訟委任は、いずれも春子が上告人のために行った無権代理行為であるとしながら、次の理由により、本件再審の訴えを却下すべきものとした。

春子は、上告人が禁治産宣告を受けて後見人に就職する以前においても、上告人が精神分裂病の諸症状を呈するようになって以来約一〇年もの長期間、事実上後見人の立場で上告人の面倒を見てきたものであり、この間には、家族と相談の上で上告人のため、被上告人らを相手に前訴と同内容の調停を申し立てたり、二度にわたって訴えを提起したりしていること、しかも、このような春子の態度について家族の他の者が異議を差し挟んでいたとか、春子と上告人とが利害の相反する状況にあった等の事情は全く見当たらないこと、被上告人らは、二度にわたる訴えに対し、その都度弁護士に依頼して応訴してきたこと等の事情の下では、春子が後見人に就職し、法定代理人の資格を取得した以上、それ以前に上告人のためにした自己の無権代理行為の効力を否定することは、被上告人らとの関係において訴訟上の信義則に著しく反し許されない。したがって、春子がした前訴の訴え提起行為及びL1弁護士への訴訟委任行為の効力は、春子が後見人に就職するとともに上告人に有効に帰属したものというべきである。

三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

前示の事実関係によれば、前訴の訴え提起及び弁護士への訴訟委任は、何らの権限のない春子が上告人のために行った無権代理行為であり、上告人本人は、春子がこのような行為をするについて何ら関与するところかなかったのであるから、前訴の提起及び弁護士への訴訟委任は本来その効力を生じ得ないものといわなければならず、たとえ原判決挙示のような事情かあったとしても、その説示するように、前訴における春子の訴訟行為がその後見人就職とともに有効となるとすることはてきない。けだし、訴訟行為は、私人である当事者の行為であっても、裁判所が公権的に法律関係を確定するために行う審理裁判の基礎を構成するものであり、民事訴訟法が、無権代理人の訴訟行為が効力を生じる場合として、追認がされた場合のみを明文で規定している趣旨に照らせば(同法五四条参照)、訴訟行為をした無権代理人が本人の後見人に就職したからといって、もともと私的権利義務関係の調整に係る法理である信義則をそのまま用いて、追認がされた場合と同じく有効となるとすることは相当でないからである。また、家庭裁判所の審判によって選任された後見人は、禁治産者の正当な利益を図るべき公的な責務を有しているのであり、家庭裁判所の審判により上告人の後見人に就職した春子において前訴の訴訟行為の無効を主張してした本件再審の訴えの提起は、後見人としてのこのような責務に基づく所為であることも看過されてはならない事柄である。

 これと異なる見解に立って本件再審請求を排斥すべきものとした原審の判断には、民訴法四二〇条一項三号の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れず、一審判決は取り消されるべきである。そして前示したところによれば、前訴の訴え提起及び弁護士への訴訟委任は春子の無権代理行為によるものであるから、前訴判決には、民訴法四二〇条一項三号の再審事由があることが明らかであって、前訴判決は取り消されるべきであり、前訴の訴え提起が無権代理行為によるものである以上、前訴の訴えは不適法として却下されるべきものである。上告人は、前訴の訴え提起行為のみは追認するとして、前訴手続のやり直しを求めているが、無権代理人がした訴訟行為の追認は、ある審級における手続が既に終了した後においては、その審級における訴訟行為を一体として不可分的にすべきものであり、一部の訴訟行為のみを選択して追認することは許されないと解すべきであるから(最高裁昭和五四年(オ)第八七九号同五五年九月二六日第二小法廷判決・裁判集民事一三〇号三九三頁参照)、前訴の訴え提起行為のみを追認することは許されない。

よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九九条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官遠藤光男 裁判官小野幹雄 裁判官三好 達 裁判官高橋久子)

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