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2006/08/18

措置から契約?

 措置制度から契約に変わるときにどのような議論があったのか、そもそも措置制度とはどのような制度であったのか、などなど、きわめて初歩的な質問を、福祉の法領域に詳しい方に聞いてみた。いまさら何を、と言われそうな質問なのであるが、いろいろご教示いただいている。まだまだ未消化であるが、いくつか面白い発見をしている。たとえば次の本である。

成年後見と社会福祉-実践的身上監護システムの課題 エンパワメントブックス 信山社(2002)池田 恵利子他著

この本の中で小嶋珠実さんという方が紹介されていたのであるが(同書34p)、2000年3月29日付けで当時の厚生省が「介護保険最新情報vol55」というのを発行しているらしい。そこに記載されているのは「特別養護老人ホームにすでに入居している方(旧措置入所者)について、判断能力に欠ける者であっても、4月1日から当然に措置から契約に移行し、措置解除の手続きも要せず、改めて契約を締結する必要もない、重要事項説明書の説明も同意も必要ではない」という見解が示されているというのである。
 わたしは実際にこの介護保険最新情報なるものを見ていないので、どんな文意であったのか確認できないのであるが、小嶋さんの文章(小嶋さんも青木さんという人の孫引きである)の表現がその通りだとすれば、厚生省の言う契約とは、わが国の法秩序の中では特異な契約であると言えよう。その成立のためには、本人の同意も署名も、もっと言えば内容確認も意思表示も必要ないのである。

また小嶋さんの論稿の40pには、厚労省が 2001年にまとめた支援費制度Q&Aの次の文章が引用されている。
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問36)契約の当事者としての能力を誰がどのようにどの程度まで認めるのか。
「契約を締結するだけの能力があるかどうかという問題は、利用者と事業者との間の問題であるが、実際の契約の場面においては、判断能力が不十分な者についても契約が円滑に結べるよう、利用者本人の意思を代弁する家族が支援したり、福祉サービス利用援助事業による支援を受けることが考えられる。また、家族等が代理人として契約を結ぶことも考えられる。」
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この文章については、厚労省の次のサイトの平成13年をご覧ください。
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/syakai/sienhi/index.html
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/syakai/sienhi/qa.html  ←平成13年度版

ここでもまた無権限の家族の代理権を認める記載がある。
 どうも厚生労働省所管の福祉の世界では、民法の基本的な考えを変容させているようだ。これは、しかし現場(福祉事業者)の要請に答えたもではないか。いきなり契約なんていわれても困る、介護保険や支援費導入当時にこういう声が当然あったはずである。その声に答えて、無理を承知で無権代理を黙認しているのではないか。これは推測でしかないが、そう考えないとどうにも理解できない。
 そして、前にも書いたが、こうした無理はトラブルが生じない間はいいが、いざ紛争だ裁判だという話になると、いろんな困難を生じさせる。しかし、そのことを考慮していると日常がまわらない。日常と法形式がどうにも乖離しているのである。

 こうした事態を、「本人不在」の中での「意思決定の辻褄あわせ」と評価するとおそらくは書きすぎだろう。関係者の多くは「善意」で辻褄を合わせているのだから。しかし多くの人が問題のありかには気がついている(と思う)。ご本人参加を可能にする、無理のない法形式を考えていく方向が模索されてよい。
 この点、いろんな努力があるらしいが、わたしはまだまだ未消化である。

※ なお介護保険の導入は社会福祉法の制定や成年後見制度の発足と同じ平成12年(2000年)であり、障害福祉の分野での支援費の実施は、平成15年(2003年)からである。

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コメント

おかしな話
常識がどうも良く分からない。
医療・介護は、もともと、契約関係でしかないはず。
以上

投稿: K&O | 2009/03/20 10:38

momoさん、合歓の里、いかがでした(あ、momoさんのブログネタだ)。あと10日、オトウサンに呼びかけるだけでなくオカアサンに呼びかけるほうが先でしたね。
 福祉の契約の話は、理解できない話が多くて困ると同時にとても興味がわきます。九大の若い行政法の先生がいい論文を書いていたりして刺激を受けています。そのうちに続編を書きますね。

投稿: satosho | 2006/08/22 10:42

お暑うございます。あと10日ですね(あ、これは違う記事だ!)。「措置から契約へ」のところの話は、以前、保育政策がらみ(ちょうど、保育所の民営化をめぐって、保護者会が反対運動などを起こしていましたから)で非常に興味を持ち、いくつか本を読みましたが、法的な観点から書いてあるものが皆無に近く、「???」な状態でした。どういう契約なのか、契約当事者は誰なのか、契約内容は・・・など、本当によく分かりません。分かったのは、「民法に位置づけられない、特殊な、公法的要素が強い契約」ということだけでした。あまりにわけがわからず、漠然としていて、論文化を断念したのですが、また、考えてみたくなります(そんな時間があるのか!!)

投稿: MOMO | 2006/08/22 10:32

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