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2006/09/14

ケアの社会的分有

 中根さんの本の紹介の最終です。父親の語りの分析から家族内で父親は母親とは違うタイプのケアをしているのではないか、そんな指摘をした上でこの本は、次のようにケアのプロセスを4つに分けたものを引用しています。130p
 配慮すること(Care for)
 ケアの運営責任をもつこと(Take care of)
 具体的なケアを提供すること(Care giving)
 ケアを受けること(Care recieving)

 中根さんによれば、この4つのうち、最初の三つはそれぞれ担う人が別の存在であることが望ましいそうです。この4つに分けることが適切かどうかは今の私には即断ができませんが、いろんな人がタイプの違うケアを担うことが大切である点は私も同感です。この本には、続けて次のように書いてあるのが印象的です。「三つのケアの担い手が一致すると、深刻な問題が起こりやすい。問題とは、家族介護でいえば、介護者の燃え尽きや被介護者への虐待、施設でいえば、暴力や社会とかけ離れた生活環境といった人権侵害や金銭面での搾取などである」。
 子供が成年期に達した親は、「親のロールモデルの不在」ゆえの「予測可能性」の低下に直面し、やがて「親でさえこんなしんどいと思うことを他人がやってくれるはずはない」という想いと、「自分の体が動けるあいだに、他人の手に子供を委ねて目をつむりたい」という相反する想いの中で、親亡きあとを心配することになると指摘しています。これも実際の親たちには、概ね受け入れられる指摘でしょう。

 話を将来展望に移します。中根さんの本は、これまでに紹介したように、知的障害者の家族の内部関係と社会関係を描き出した上で、親亡きあとへの不安(=時間の限界性)を克服する方途として三つのことをあげてます。ひとつは「時間の継続性」を確保させること。どこかでケアが途切れないことですね。親なきあとの基本問題です。これについては、中根さんは、法人後見に期待をしているようです。二つ目は「親密性を確保」すること。親としての親密な関係をケアを社会化したあとも残すことでしょうか。これつにては、ケアの社会的分有(ケアの社会化でもある)に親に参画することに展望を見出そうとしています。三つ目は、将来への予測可能性を高めるために、施設のありかた、住まいのあり方を考え直し、施設でも在宅でもないような「中間領域」を工夫すること参照しています(162p)

 こうした著者の展望の背景には、次のような現状認識があるようです。
 「入所施設は予測可能性や継続性は高いが、三つのケアの担い手が一致しがちである。地域生活は、ケアの担い手の多元化が可能だが、現在では予測可能性や継続性が乏しい。」131p

 この将来展望は、読み進んできた私にはやや意外でした。どういうことがいうと、ケアの分有を前提に継続的な後見をいうのであれば、法人後見かどうかではなくて、「どのような」後見が「継続されるべきか」であるように思うからです。たしかに法人後見に期待を抱く親は多い。それはしかし、疲れ果てた上に、最期にそこしかないから託しているのであって法人それ自体を信頼しているわけではないのです。入所施設に託す親の心境も同じであるように思います。しかし他の人であればともかく、著者の場合はケアの中身を細かく見ていこうというのであるから「法人後見」と親の共同後見への期待だけで終えた本書のあとには、更なる展開をみる次の一書が出てくるような予感がします。二つ目の社会的分有へ親の参加をいうところも同じです。もっとケアの中身に立ち至った分有論がでてくるでしょう。三つ目の中間領域については、グループホームのあり方をめぐって盛んに議論が展開されているところなのですが、本書では一顧だにされていません。これも今後に期待したいところです。なにせこの本の著者である中根さんは飛び切り若いのです。我々の世代がアトを託す世代です。この世代の研究者から、こういう優れた記述ができる人が登場したことが、とても素晴らしい。
 最期に、父親たちは「正義の論理とケアの論理の<あいだ>の道」を模索しているとの記述がありました(174p)。著者の意図の正確なところは、もちろんよくわかりませんが、正義とケアの関係は、とても興味深い論点です。そして、この指摘は私なりに共感を持ちます。刺激を受けた本でした。さて、これから本業です。

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