« 雉本朗造の法律研究所 | トップページ | 解体作業その後 »

2006/11/02

雉本朗造の法律研究所2

 大正11年3月13日。瀬戸内海の航行する客船のデッキから一人の男性が海中へ姿を消しました。名前は雉本朗造、年齢46歳。職業は、京都帝国大学法学部教授。教えていた科目は民事訴訟法。そう、この先生は、私が大学で教えているのと同じ科目を教えていた大先達なのです。

 一つ前の記事の文章で名前を挙げたこの雉本朗造先生については、「え?、ダレこの人?」という人も多いでしょう。このブログでも昨年の2005年5月に書いてはいたのですが、当時はこのブログはほとんど訪れる人もありませんでしたし(このブログの訪問者が増え始めたのは、今年2006年の4月以降です)、また文章も簡単なものでした。あらてめて紹介の文章を書いておきます。(過去のものは削除しました)

 雉本朗造先生は、明治後期から大正期にかけて京都帝国大学法学部教授として、民事訴訟法の研究・教育に携わった人です。しかし、その活動は、大学内にとどまらず、立命館大学に日本法律研究所(いまでいう大学付属法律事務所)をもうけて実践面でも活躍。名古屋の鳴海地区の小作争議に深く関わり、大正11年に瀬戸内海の宮崎丸船上から明石沖にて水没。東京帝国大学教授への転籍をめぐる自殺説と、小作争議にからんだ他殺説がありますが、真相は不明です。もっとも同じ船に奥様とお子さんが乗っていたというのですから、自殺説はあんまり説得力がないと私は思っています。

 この日本法律研究所というのは、名前は研究所ですが、先の記事にも書いたように「法学部の付属病院を目指した」もので、実態は30名の弁護士が関与する本格的な法律事務所だったと思われます。関西方面でかなり手広く事件を扱い、当時の弁護士会から営業妨害であるとクレームがでたこともあると書かれています。
 
 雉本先生の生まれは、1876年1月11日(明治9年)です。瀬戸内海で不慮の死を遂げたのは、1922年3月13日(大正11年)ですから46才だったことになります。法学者としては、もっとも油ののった時期ですね。

 その雉本先生の社会活動のもっとも有名なものが名古屋の鳴海小作争議でした。

 この小作争議については次のサイトがあります。
「名古屋市の緑区いまむかし」
http://www2n.biglobe.ne.jp/~midori/back_numbers/04/midoriku.html
いちどこの浦里公園(旧雉本公園)を訪れてみたいと思っているのですが、なかなか機会がありません。

また、この小作争議を研究した文献として次のものがあります。
「ある小作争議指導者の生涯」 古賀 保夫   中京大学教養論叢 VOLN : 20(2) PAGE:365-321(1979)

 日本法律研究所の活動については次の文献があります。
佐上善和「雉本朗造と日本法律研究所」立命館法学201号=202号1021p(1989) これは、佐上教授が立命館大学に残る雉本朗造の資料を発掘したものです。

また総合的な解説としては、次の文献が有益です。
 江藤价泰(えとうよしやす) 「雉本朗造」法学セミナー別冊『日本の法学者』187ー204p(日本評論社・1974)

 なお、雉本朗造の民事訴訟法の解釈論に関する仕事については、後年、兼子一が収集、編纂しています。次の本です。
 雉本朗造「民事訴訟法の諸問題」有斐閣 昭和30年

以下、兼子先生の編集にかかる雉本博士の論文集の目次をあげておきます。

↓雉本朗造論文集目次

訴権論
民事訴訟に於ける「正当なる当事者」なる観念及び其の訴訟法上の地位を論ず
境界の訴を論ず
請求の予備的併合及び選択的併合
挙証責任の分配
裁判の無効
判決の参加的効力
請求に対する異議の訴
強制執行の優先主義及び平等主義
競売法に依る競売の性質及び競売開始の効力
供託の性質及び其の法律関係
付録 訴訟行為論
付録 証拠の取捨及び事実の認定

 学生時代に「挙証責任の分配」を読んで、うーんすごい、と唸った記憶があります。なお朗造という名前は「ロウゾウ」と「トキゾウ」の読み方がありますが、私はトキゾウと読んでいます。どっちが正しかったのか、確認していません。

|

« 雉本朗造の法律研究所 | トップページ | 解体作業その後 »

法と弁護士」カテゴリの記事

法学教育など」カテゴリの記事

コメント

え?、一応削除前に確認はしたんですが、コメントは付いていなかったと思ったもので。もし確認ミスだったらごめんなさい(削除したものの復活コマンドはなかったなあ)。
 MOMOさんも、雉本先生の本を読んだことがあるとはうれしいですね。昔の先生は、漢文読み下し調で論文を書いていますから、さすがに格調が高い。私は、寺町丸太町のところにある古本屋で購入しました(ローカルネタやなあ)。あの古本屋、まだあるのかどうだか。最近の人は法律学の古本なんて購入しないでしょうからねえ。

投稿: satosho | 2006/11/03 12:02

何か、前回の「雉本先生の話」でもコメントしたような気もするんですが(笑)、いや、コメントしようと思っていただけだったか・・・とにかく、また、雉本先生ネタが出てきて、とてもうれしいです。
雉本先生の、この論文集は、大学資料室にあるのですが、わりとよく手にとります。初めて手にしたのは、「強制執行の優先主義及び平等主義」を読むためだったかと思いますが、ビビーンと体に何かが走りました。本当にすごい論文を読むと、ビビーンと何かが走ります。最近、滅多にないのは、私の感性がにぶっているからなのか・・・

投稿: MOMO | 2006/11/03 11:38

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 雉本朗造の法律研究所2:

« 雉本朗造の法律研究所 | トップページ | 解体作業その後 »