« 優先席と携帯 | トップページ | え、住基ネットの裁判長が自殺? »

2006/12/03

最高裁が高裁の「一発逆転判決」を差戻す

 裁判官ネットワークのブログで知ったのですが、最高裁が東京高裁の一発逆転審理を批判した判決を出したようです。平成18年11月14日最高裁第三小法廷判決(事件番号・平成16(受)2226)です。

医療過誤事件で、原告患者側勝訴の東京地裁判決の控訴審で、東京高裁が第一回期日で口頭弁論を終結し、原告の請求を棄却する逆転判決を出して上告されていたのですが「採証法則違反がある」として破棄差戻しになっています。

判決は下記からダウンロードできます。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=33792&hanreiKbn=01

新聞でも報道されています。

毎日新聞 2006年11月14日

朝日新聞を一部引用しておきます。

 「医師に過失なしとした二審を破棄 医療過誤訴訟で最高裁」
 最高裁第三小法廷(藤田宙靖(ときやす)裁判長)は「医師の過失や死亡との因果関係について相反する内容の2通の鑑定書を十分に比較検討しなかった」として二審・東京高裁判決を破棄。審理を同高裁に差し戻した。
 判決によると、男性は00年4月下旬、結腸ポリープの摘出手術を受けたが、約1週間後に急性胃潰瘍(かいよう)による出血性ショックで死亡した。
 一審・東京地裁は「十分な量の輸血をしなかった過失がある」として約8000万円の賠償を命じたが、二審・東京高裁は「医師に過失はなかった」と判断して遺族側の請求を棄却した。
 第三小法廷は、一審が根拠とした「迅速な輸血をすれば救命の可能性が高かった」という遺族側提出の鑑定書について「合理性を否定できない」と述べた。そのうえで、「病院側提出の鑑定書をそのまま採用して医師に過失はない、とした二審の事実認定の仕方は違法だ」と結論づけた。

 新聞の記事では明確に書いてはありませんが、最高裁判決を読むと、東京高裁は第一回口頭弁論で弁論を終結しています。しかも地裁で提出されていた鑑定書とは別の鑑定書が、その第一回口頭弁論で提出され、その鑑定書に対する地裁鑑定書との比較や反論の機会のないまま、逆転判決が行われた点を、最高裁が問題にしています。

(判決要旨)
ポリープ摘出手術を受けた患者が術後に出血性ショックにより死亡した場合につき,担当医が追加輸血等を行わなかったことに過失があるとはいえないとした原審の判断に採証法則に反する違法があるとされた事例

(最高裁HPの判決PDFには、判決理由の下記部部にアンダーラインが引いてあります)
「そうすると、4月29日以降のBの状態や前記2(3)の医学的見地から判断して、原審は、Y1において、Bに対し輸血を追加すべき注意義務違反があることをうかがわせる事情について評価を誤ったものである上、G意見書の上記イの意見が相当の合理性を有することを否定できないものであり、むしろ、E意見書の上記アの意見の方に疑問があると思われるにもかかわらず、G意見書とE意見書の各内容を十分に比較検討する手続を執ることなく、E意見書を主たる根拠として直ちに、Bのショック状態による重篤化を防止する義務があったとはいえないとしたものではないかと考えられる。このことは、原審が、第1回口頭弁論期日に口頭弁論を終結しており、本件の争点に関係するG意見書とE意見書の意見の相違点について上告人らにG講師の反論の意見書を提出する機会を与えるようなこともしていないことが記録上明らかであること、原審の判示中にG意見書について触れた部分が全く見当たらないことからもうかがわれる。このような原審の判断は、採証法則に違反するものといわざるを得ない。」

 以前、歩行者訴訟の記事でも書きましたが、東京高裁の審理は、第一回口頭弁論で終了することが珍しくありません。証拠調べのチャンスもほとんどないわけですから、地裁判決と同じ結論であればまだしも、それで逆転するとなると、なにが理由なんだろう、と世間常識では思うことになります。そうした審理慣行へのひとつの警笛をならしたものといえそうです。

追記: 念のために書いておきますが、この最高裁判決は、高裁が第一回口頭弁論で審理を終結して逆転判決を出したことから、直裁に破棄しているわけではないでしょう。鑑定書の比較の有無など、証拠調べの扱いに問題がある(採証法則の違法とはそういうことです)としている、いわばあわせ技のように思います。

 経験則違背・証拠調についての上告審での取り扱いは、なかなかやっかいで講義をしていても学生がすっきり納得したという顔をなかなかしてくれないところですが、この事例は高裁の審理慣行もにらんでの話しですからなおさらやっかいです。でも実務的にはかなりの影響があるのではないでしょうか。

|

« 優先席と携帯 | トップページ | え、住基ネットの裁判長が自殺? »

sho民訴」カテゴリの記事

コメント

追記を加えました。pm1時

投稿: satosho | 2006/12/03 12:52

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/73618/12912871

この記事へのトラックバック一覧です: 最高裁が高裁の「一発逆転判決」を差戻す:

« 優先席と携帯 | トップページ | え、住基ネットの裁判長が自殺? »