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2006/12/18

意思無能力の相続人の相続税と事務管理

 なにげに法律雑誌を眺めていると、ときおりアレと思う事例にでくわす。判例タイムズ1222号(2006年12月15日号)に次のような標題の最高裁判決が掲載されていた。

意思無能力者に代わって相続税を申告し納付した者による事務管理に基づく費用償還請求につき,意思無能力者には相続税申告書の提出義務がなく税務署長による税額の決定がされることもないことを前提としてこれを否定することはできないとされた事例

最高裁平成18年7月14日第二小法廷判決 判例タイムズ1222号156頁である。

 下記最高裁ホームページから判決文はダウンできます。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=33324&hanreiKbn=01

事件番号を書いたほうが分かりやすい人がいるかもしれないので念のために記載すると、平成17年(受)第883号、求償金請求事件となっている。

事件の概要は、お父さんが死亡して妻と子供が財産を相続することになったのですが、妻が意思無能力状態だったので、子供の中の代表者が母親に代って、自分の分と母親の分の相続税申告と納付を行った場合、代って納付を行った子供が、母親に事務管理(自分の義務上の仕事でないことをやったということ)に基づく費用償還を理由に、納付分の返還を求めることができるかが、争われた事案です。

上の記述は実は、簡略化しています。実際は、代って納付した子供も、母親もすでに死亡したあとに、その相続人たちの間で紛争が生じているのです。

Aさんが昭和62年9月に死亡し、相続人は妻B、子であるC、D、E、Yらであった(子供は11名:多いなあ・Satosho)。Aさんの死亡した時、妻Bは、意思無能力者であった(その詳細は不明です)。Aの相続人らは、Aの遺産につき分割の協議をしたが、成立には至らなかった。そこで昭和63年3月、Cが、自らの相続税の申告をするとともに、Bに代わって、Bの相続税を申告した。Bの納付すべき税額は、6953万8500円であり、Cは、B名義で銀行から資金を借り入れて、Bに代わって相続税を納付した。Bは、昭和63年9月、死亡した(Bの相続人は、前記の子11名であった。)。Cも、平成5年7月死亡し、XがCの財産(その中にBに代わって相続税を申告し、納付した費用償還請求権も入っていると主張している)を相続した。そこで、XがYらに対して、主位的に、民法650条1項所定の委任契約に基づく費用償還請求として、予備的に、民法702条1項の事務管理に基づく費用償還請求として、Bに代わって納付した相続税の一部である6953万円の11分の1ずつの支払等を請求したものである。

高等裁判所の判断はつぎのようなものだったらしい。

控訴審判決(名古屋高裁)は、相続税法27条1項によると、相続税の申告書の提出義務は自己のために相続が開始したことを知った日から発生するところ、意思無能力者については、後見人が選任された日から生じるとし、Aの死亡当時、意思無能力者であったBには後見人が選任されておらず、申告書の提出義務が発生していなかったし、Aの死亡の翌日から6か月を経過した後に申告書を提出しなかったとしても、税務署長が税額を決定することはなかったから、本件申告は、Bの利益にかなうものとはいえず、かえってBに納税義務を生じさせるという不利益なものであったとし、本件納付につき事務管理の費用償還請求をすることはできないとし、予備的請求を棄却したものである。Xが最高裁へ上告受理の申立てをしたものである。

 予備的請求の事務管理が争点になっているところをみると、主位的請求の委任契約に基づく費用償還は棄却されていると思われます。これはBが意思無能力であったから当然でしょう。そこで事務管理について最高裁は、概要つぎのように判断しました。

 判旨 予備的請求部分につき破棄、差戻し。

共同相続が開始し、共同相続人の1人が、意思無能力である他の共同相続人のために相続税の申告をし、相続税を納付した場合、相続税法27条1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者について、納付すべき相続税額があるときに相続税の申告書の提出義務が発生することを前提として、その申告書の提出期限を「その相続の開始があったことを知った日の翌日から6月以内」と定めているものと解するのが相当であり、意思無能力者については、法定相続人がその相続の開始があったことを知った日がこれに当たり、相続開始の時に法定代理人がないときは後見人の選任された日がこれに当たると解すべきであり、意思無能力者であっても、納付すべき相続税額がある以上、法定代理人又は後見人の有無にかかわらず、申告書の提出義務は発生しているというべきであって、法定代理人又は後見人がないときは、その期限が到来しないというにすぎないし、相続税法35条2項1号は、申告書の提出期限とかかわりなく、被相続人が死亡した日の翌日から6か月を経過すれば税務署長は相続税額の決定をすることができる旨を定めたものと解すべきであり、同号は、意思無能力者に対しても適用されるというべきであるとし、本件申告時において、意思無能力者である共同相続人の1人に相続税の申告書の提出義務が発生していなかったということはできず、所轄税務署長がその税額を決定することがなかったということもできないから、本件申告に基づく本件納付がその利益にかなうものではなかったということはできず、事務管理に基づく費用償還請求を直ちに否定することはできないと解するのが相当である(原審においては、相続税の申告等をした共同相続人自身が意思無能力者である他の共同相続人の相続税納付のための費用を支出したかどうか等につき審理を尽くす必要がある。)。

ちょうど意思能力の怪しいご家族、(お父さんがお亡くなりになったが、妻の意思能力が怪しいし、成人に達している子供(一人)は、明確に意思無能力者(療育手帳の重度)であるご家族の相続の相談を聞いたばかりであったびで、この判決が目につきました。相続税の申告や納付について参考になります。

 不動産の名義移転や預金・証券類の相続には成年後見の利用が当然に眼中に入ります。しかし税金の支払いはどうか。とにかく事務管理的に申告と納付をやってよいことが、判断の大前提になっています。申告と提出期間が死亡後半年であればやむを得ないでしょう(税務署のサイトでは10ヶ月となっている:規定が変わったのか)。その処理と、法律構成を教えてくれる判決でもあるわけです。

 でも相続って財産があると大変ですよねええ。つくづく。

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