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2006/12/12

弁済期未到来の判決は?

夕刻、病院へ行って注射を一本。元気になった(気がする:笑)。
そこで、学生へのお詫びにある質問と回答を書いておきたい。学生の質問には、ときおり基本的なことを確認するのにいい質問があることがある。これもそのひとつである。(以下、法科大学院や民訴に興味のない人にはまったく無駄な文章です)。

1)A君「先生、先日、貸金返還請求訴訟で、弁済期未到来で棄却された場合に、再度、弁済期が到来したとして訴訟が起こせるのはなぜか?」との設例をあげておられましたよね」
2)satosho「ああ、そうでしたね。多くの人が基準時後の新事実だからと応えていましたね。そこで前訴で弁済されたことを理由に棄却された場合に、弁済期が到来したとして再度訴訟が起こせるかと、質問して盛り上がりましたね」
3)A君「僕は、最初の設例自体がよく分からないのですが、弁済期未到来の場合になぜ”棄却”なのでしょうか」
4)satosho「え、どういうことですか?」
5)A君「えっと、前訴で裁判所が原告の主張債権はまだ弁済期が到来していないと判断するわけですよね。」
6)satosho「そうです」
7)A君「だったら、前訴の請求は現在のものではなくて、将来の権利になるから棄却ではなくて、却下なんではないでしょうか」

 もともとの1)と2)であげられている設例は、既判力の基準時と作用のありかたをめぐって何人かの研究者が難問として議論しているものである(たとえば高橋「重点」上535頁)。私は、この問題は純粋に理論的なものであって実例として意味があるとは思はないが・・・既判力の作用を考える上では面白い問題である。

 ところが、A君は、こちらの意図とはまったく別に7)のような疑問を持ったのである。なるほど学生との対話は面白い。ホウそうきたかあ、てなもんである。

8)satosho「え、いや、これは基準時の時点での判断であり、その時点では貸金返還請求権がないから棄却なんですよ」
9)A君「でも、同時に弁済期未到来だから、その時点での訴訟物は将来債権ではないのですか、だったら却下だと思います」

 A君は熱心な学生である。民訴を習ったことのある人なら、訴訟上の給付請求は現在給付(つまり「すぐに払え」との請求)が原則で、民訴135条の例外を除けば、将来請求は訴の利益を欠くので却下されることをご存知であろう。(なぜそうなのかの説明は教科書をお読みください・また、これとの関係で民訴117条の定期金賠償判決を将来給付の判決だと誤解している学生も時折見かますが、これもここでいう将来給付請求ではありません)。
 A君は、このことをきちんと理解したうえで、弁済期未到来の債権は、将来債権であるから将来給付のはずだ、だったら訴の利益を欠き却下ではないのかと考えたわけである。

 A君の疑問は、一見なりたつと思う人もいるかもしれない。でも、これは訴の利益の判断を何に対して行っているのかを考えれば、成り立たないことが分かる。

 訴の利益の有無の判断は、原告の申立に対して行うものである。原告は、「将来のいつなん時に、いくらいくら払え」と請求しているわけではない。「いま払え」、こう請求を立てているのである。これは現在請求であって、裁判所が弁済期未到来と判断したからといって、原告の請求が当然に変るものではない。将来請求に訴を変更するのであれば別であるが(弁済期が到来していることを前提にしている原告としては、それも難しい)、現在給付の申立である限り、訴の利益はクリアしている。そして、現在の給付を認めることはできないのであるから請求棄却になるのである。

 ずいぶん単純な話しである。そうであるだけに教科書類にもこんなことは書かれていない。しかし学生が迷うのは、1)や2)で設定した最先端の議論や理論的な難問ではなくて、案外、こんな話しなのかもしれない。それが分かっただけでも、A君の質問は、いい質問である。

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