知的障害者の任意後見契約
任意後見契約は、ご存知のように契約締結能力がある間に、自分のために後見活動をしてくれる人と、活動内容を定めて契約を結び、後に裁判所に申立てて任意後見監督人を選任してもらうことで効力の発効する契約である。以下は、これについてのちょっとした個人メモ。
たとえば日弁連の発行する「Q&A 高齢者・障害者の法律問題」日弁連高齢者障害者の権利に関する委員会編( 民事法研究会・2005)243頁には、知的障害者の「親なき後」対策として、次のような記載がある。
「子どもの判断能力が、任意後見制度の利用が可能な程度であれば(法定後見制度の補助程度)、子ども自身が任意後見契約を締結することができます。親が元気な間は、任意後見人は必要ないということであれば、親がなくなったり、さらに判断能力が低下したときに、任意後見監督人の選任の申立てをし、任意後見を開始させることができます」
任意後見監督人の選任までは公証人の認証を受けた書面で解除できたり(任意後見契約法9条1項)、任意後見人に取消権がなかったりするので、法定後見を勧める論調ではあるが、とりあえず知的障害者が、任意後見契約を締結することができることが、前提となっている。
後見法制の制定にあたった立法担当者も同じ見解である。小林明彦・大鷹一郎・大門匡著「一問一答 新しい成年後見法」商事法務(2000)172頁に次のように記載されている。
「知的障害者・精神障害者等の「親なき後」(親の老後・死後)の保護のために任意後見契約を活用する方法としては、次のような方法が考えられます。
第一に、子(知的障害者・精神障害者等)本人は、意思能力がある限り、自ら任意後見契約を締結することができ、親の老後・死後に任意後見受任者が任意後見監督人の選任を申し立てることにより、任意後見人による保護を受けることができます。未成年の子も、親権者の同意を得て自ら任意後見契約を締結することができます。
また、子本人に意思能力がない場合でも、子本人が未成年の間に、親が親権に基づいて、子に代って任意後見契約を締結することも可能です。
第二に、親自身の老後の財産管理等に関して、親が自己を当事者とする任意後見契約を締結するとともに、個々の事案に応じて、①遺言執行者(注)遺言の管理方法を指定する遺言、②親の死後の財産管理を受託者に委託する信託、③親の死後における子の介護等の事実行為を第三者に委託する準委任契約等を適宜組み合わせることにより、親の老後・死後における子の保護およびそのための財産管理等のあり方をあらかじめ定めておくことが可能です。
(注)事務処理の連続性の観点から、任意後見人と同じ人を遺言執行者に指定する方法も考えられます。任意後見人と同様、法人や複数の人を遺言執行者に指定することも可能です。」
いささか引用が長くなったが、ここでも知的障害者が任意後見契約を締結できることが真正面から認められれている。
以前、このブログで紹介した西村武彦弁護士の成年後見通信でも、同様の記載がある。
知的障害者の人たちの中には、法律的な意思能力がないと判断される人もいれば、かなりの能力があると思われる人もいる。また、意思能力の判断は、もともと行おうとしている法律行為との相関でその有無が判断されるのであるから固定的な判断が行われるものではない。そこである種類の契約(たととえば、複雑な金利計算をした上での返済約束(義務の負担)を内容とする借金)と、別の種類の契約(たとえば、自己の権利を保全するための訴訟委任契約)とでは、その必要とされる意思能力が異なる。この例で言えば、前者より後者のほうが判断能力があるとされる可能性が高いといえよう。
そこで、任意後見契約は、取消権がなく、代理権をその主内容とする契約であってその発効にあたっては監督者も選任されるのであるから、知的障害者であっても、このような前提で要求される意思能力があれば、締結できる、との見解は当然にありうるものである。
ところがなのである。私の周りに、知的障害者が任意後見契約を結んだ例がまったくない。文献上も、「できる」とは書いてあっても実際例があるとか、その紹介をしたものをみない。これは私が見ないというだけであって、ひょっとしたら実際に例があるのかもしれない。が、あまり利用はないであろう。
理由をあれこれ考える。親や保護者が、知的障害者の能力を低く見すぎているのではないか、と指摘してくれる人もいる。そうかもしれない。裁判所ですらそうであって、法定後見も後見類型が圧倒的に多く、保佐や補助は少ない。
また契約締結能力の判断が、前述のように一律定型的なものでないということから、後のトラブルを危惧する相手方や関係者がシュリンクすることもありえよう。そうした例は、地域権利擁護事業に見られる。これも利用が契約ベースであるから、地域社協によっては知的障害者の利用に積極的なところと、まったく相手にしてくれないところとが出ている。
であるなら、任意後見よりも裁判上の決定で決まる法定後見の補助あたりを使ったほうがよいという意見もありそうだが、こちらも利用はあまり伸びない。ますます謎だ。
結局、本人の法的能力を温存した形で面倒な支援をしなければならないカタチは、好まれないということなのだろうか。さらに検討を続けたい。
任意後見と法定後見の違いで一点だけ指摘できることは、代理型後見人を任意後見では自分で指名できる、という点である。法定後見は、あくまで裁判所。ここらあたりが便利なようであり、かつ危ない、ということなのだろうか。
参考:
日本公証人連合会の解説 ↓
http://www.koshonin.gr.jp/nin.html
西村武彦弁護士の成年後見通信 ↓
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