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2007/03/11

宇治塾講師殺人事件

標記の事件で、京都地裁が加害青年を懲役18年にした判決がでたことは、すでに多くの人がご存知ですね。そして、青年がいわゆるアスペルガー症候群に属する障害を負っていたことが鑑定で明らかにされたことも報道されました。

 

この事件と判決については、アスペルガー障害に詳しい幾つかのブログでコメントが掲載されています。とても参考になりますので、あげておきます。

http://homepage3.nifty.com/afcp/B408387254/C1551211913/E20070307011338/index.html
AFCPさん(精神科医)

http://kaipapa.livedoor.biz/archives/50933784.html
カイパパさん(自閉症協会の論客)

http://diary.jp.aol.com/bfkxuuhuqg4n/537.html
MOMOさん(法律家)

 判決は、青年の刑事責任能力を完全に認めています。このことは、「アスペルガーだから事件を引き起こした」という論理構成をとっていないことを意味するとして識者の間では評価が高いようです。
 量刑が、犯行の状況から見て軽いのも、それはアスペルガー障害であることを考慮したというよりも、精神疾患の状況および犯行直後に110番通報を自ら行っている点から自首の成立を認めているからのようです。
 このまま確定すれば刑務所生活が待っていますが、彼の年齢を考えればいずれ社会復帰をすることになるでしょう。それを考えると、刑務所の種類が気になります。医療刑務所でしょうか。通常の刑務所の雑居房での生活が可能でしょうか。公設民営型の刑務所の設置が二箇所で進められており、山口県美祢市の刑務所は今度の 4月からのオープンだと聞きます。ここだとケアが厚いかもしれない。社会復帰にむけての手厚いケアを行うことが、本人にとっても社会にとっても必要です。
 世の中の目は、有罪か無罪か、量刑が重いか軽いか、実刑か猶予刑か、などなど捜査から判決までをフォローして、有罪が確定して刑務所に送られれば、あとはあまり関心がありません。しかし、この青年の場合は、刑務所に送られた後がとても大切なのです。

 ところで、私は自分の専門ゆえかもしれませんが、刑事手続よりも民事に目が向きます。これはあまり報道されないし報道されてもごくごく短めの報道になるので、よほど注意 していないと見落としてしまいます。この事件では、加害青年のご両親は自宅を売却して1000万を「供託」していることが報道されています。供託してい るということは、すでに加害青年のご両親と被害児童のご両親との間でなんらかの交渉が行われ決裂しているということでしょう。
 被害者のご両親にしてみれば、お子さんを失ったショックは並大抵のものではないでしょう。刑事判決の量刑が軽すぎるという親御さんのご意見が既に表明されています。被害者側の心のケア、これが大切ですが、司法の現在の枠組みではあまり多くを期待できないところです。民事でできる限りの責任追及をしたい。自分の子どもの命をお金に換算することは親にとっては偲びないとはいえ、いまの司法の枠組みでは、それしか方法がない。そして、その金額を 法律家的に計算すると損害賠償額は「億」をくだらないでしょう。いったい誰がその損害を賠償するのか。青年にその現実的支払い能力があるとはとても思えない。加 害者はすでに親権を離れた成人男性であり、報道されている状態を前提にすれば民事の責任能力も認められる可能性が高い。そうすると、民法714条の監督責任 は問題にする余地がなく、709条の直接的な責任が親に対して主張されている可能性が高い。また勤務先であり犯行場所でもある塾の経営者に対しても使用者責任が主張 されているのではないか。所属していた大学に対してはどうだろうか。大学内の図書館でのトラブルで停学処分中であったようであるが(処分明けで復帰した直後だったようです、MOMOさんにご指摘いただきました:コメントを参照してください)、処分中の監督を怠って いたなどという理由で民事責任を発生させるのは本件では難しいように思う。しかし、被害者である親の「感情」としてはそこまで主張したくなるのかもしれない。金銭換算でしかやりとりができない司法の限界です。
 知的障害者や自閉症の人、あるいは精神障害の方が事件を起こした場合、その障害を事件の原因とすることは間違いだと私は思います。そして、社会的な支援の枠 組み、周囲の対応の検証が必要であるとも思います。だが、責任を社会化したときに生じるこの種の問題(損害賠償問題)に目を向ける人はあまり多くないように見えます。法的にも社会的 にもこの種の事件は、問題が山積です。ところが世間はもちろん自閉症協会の関係者の方々ですら、こうした法的な事後的問題については、あまり関心が あるようにみえません。

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コメント

その後の補筆:(11/09/26 Mon)
 刑事事件は控訴審で15年の懲役になったようですね。
民事では、ご両親が塾を得運営する会社を相手取って民事訴訟を起こし、京都地裁は被告会社に対し約9900万円の支払いを命じる認容判決を下し、確定しています。
京都地判平成22年3月31日判例時報2091号69頁に掲載されています。

投稿: satosho | 2011/09/26 03:29

み・みずさん。お立ち寄りいただきありがとうございます。私には充分、どなただか特定してますよ(苦笑)。
さて、み・みずさんに何かヒントといっても、釈迦に説法みたいな話になりそうですね。でもせっかくだから何か書きたいと思います。
記事を新しく起しますね。これから、いささか辛い仕事が続きますので、夜になると思います。

投稿: satosho | 2007/03/14 09:34

実はちょくちょく読みに来ています。
かもめ会教育担当副分会長です。
(これとハンドル名で個人特定できますでしょうか?)

まじめに最近我が子の防犯教育をどうしようか考えて触法事例と予防についてお勉強中なのですが、「具体的に」小学生程度の本人、青年期の本人に教える手段をどうしようかと考えています。
(素人がとっさに思いつくのは警察や刑務所・裁判所の見学位しかないので)
他人への共感を足がかりにするには自閉本人向きでは無いでしょうし、法律遵守を前面に出すと刑法から教えることは出来ますが、条例は嬉々として覚えるとしても本質的な理解がどこまで育つかは我が子を見ると心もとない気がします。
(「分かった?」と聞くと反射的に「分かった」と答えるし、単なるクイズ感覚で止まってしまう気がします)
事件の講師の青年も殺人が悪いことだと十分承知の上で、それでも実行に移してしまったわけですし、知識だけでは駄目だとすると何をすれば良いのか、殺人までは行かないとしても、何かを起こしてしまったときにどうすれば良いのかを親として知りたいのですが、どういった方面から考えていけば良いのかヒントをいただけませんでしょうか?

投稿: み・みず | 2007/03/14 09:15

みっちゃんさん、はじめまして。
 ほんとにそうですよね。不安になります。みっちゃんさんのように、声をあげることのできる人がもっともっと増えてくることも必要だと思います。
 関与している法律家もいたるところにいるのですが守秘義務の壁があったり、それと気がつかない法律家だったりでまだまだ道は遠いです。でもだんだん理解する人が増えているのも事実です。
 ブログ拝見しました。元気ブログですねえ、こっちまでも楽しくなりそうです。リンクどうぞどうぞ。私のほうは、毎日更新のブログではなくなりましたが(苦笑)。

投稿: satosho | 2007/03/12 06:54

コメントします。
当事者側から見たコメントですが、国が発達障害についての現状を体感して早急に製作して置かないと今後ともずーど問題が続いていってしまうのです。
このまま支援もされずに生きていかなければならないという不安にさいなまれるのです。
山本譲司さんの「累犯障害者」という本の中にも現状がひしひしとかかれてます。
発達障害の結びを法律などの「社会学」観点からの対応について述べられてるのが非常に見当たらないのです。
かといって、支援してもらうのではなく自身も「生きていくためのスキル」を学んでいく機会を設けていただきたいなとも実感です。

ps ブログのリンクはりよろしいでしょうか?

投稿: みっちゃん | 2007/03/12 01:21

afcpさんのブログは、いつも的確なご意見が掲載されていてともて勇気づけられています。
触法事例の検討会、興味深いですね。東京でもそうした試みがあります。大阪でもあるようですね。あまり楽しい話題ではないのですが、わたしもめげずに向きあっていきたいと思っています。個々人の努力を超えていますので、いろんなところを巻き込んでいきたいです。

投稿: satosho | 2007/03/11 22:18

記事のご紹介ありがとうございました。
刑務所に送られた後が大切というご意見、その通りだと思います。社会復帰に向けてどのような矯正プログラムが用意できるか、出所後の司法、福祉、場合によっては医療も含め、どのようなサポート態勢が組めるかなど、考えないといけないことがたくさんあります。
最近、弁護士の方や行政、福祉関係の方と一緒に、触法事例の社会復帰後のケアなどについて事例検討をさせていただく機会がありました。小さな一歩ですが、事例を積み重ねる中で、支援の方法が確立されてくるとよいと思っています。
被害を受けた方へのケアや損害賠償の問題も、本当に重要な問題です。今の時点では正直自分の手には余るのですが、目をそらすことなく考えていきたいと思っています。

投稿: afcp | 2007/03/11 19:47

 僕が、その判例をコメントしていたのを忘れていました。お恥ずかしい。事実関係の補足もありがとうございます。本文を訂正しておきました。
 わたしの以前の書き込みは、「民法709条と親の監督責任(1)(2)」ですね。去年の7月だ。
http://www.satosho.org/satosholog/2006/07/709_61c2.html
http://www.satosho.org/satosholog/2006/07/709_ec01.html
 親ができること、しなければならないこと、勤務先ができること、しなければならないこと、そして行政や障害者福祉の機関ができること、しなければならないこと、これらの整理を誰かにしてほしい。医療や介護の世界では、混乱しつつもそれなりに進んでいてるように思いますが、なにせ保険の世界ですからね。安全管理担当者を病院に必ず設置するなんて議論ができるのは、金銭的な土壌が違う。いたるところで、この国の福祉は貧しすぎると思うことがあります。

投稿: satosho | 2007/03/11 17:39

あ、早速アップされてますね・・・
とりあえず、正確な事実関係としては、事件は「停学中」ではなく、停学から復帰(4月)した後のことでした。しかし、講師のアルバイトは停学中から行われており、大学はそのことを把握していませんでした。それだけのことで民事責任が生じるとは思いませんが、当時の世論からすれば、訴えが提起されてもおかしくありません。
刑事事件にばかり目を向けられがちですが、特にこういった事件の場合、遺族のやり場のない怒りは、結局、民事的におさめることになるのだろうと思います。このケースでは、執行猶予中ですが、最近の最高裁判決(先生がここでコメントされていましたね)からすれば、親の責任を問うのも難しいかもしれませんね。

投稿: MOMO | 2007/03/11 12:54

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受信: 2007/03/16 23:14

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