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2007/06/25

成年後見人選任と不服申立

 町村先生に教えてもらったのであるが、成年後見人の選任につき、不服申立てを許さない決定が出ている。
http://matimura.cocolog-nifty.com/matimulog/2007/06/arret_c1be.html
http://kanz.jp/hanrei/detail.html?idx=1881


 現在、成年後見の開始決定については民法7条に記載されるものが即時抗告できるとされており(家事審判規則27条1 項)、また後見開始申立の却下決定については、申立人が即時抗告ができることになっている(家事審判規則27条2項)。しかし、開始の場合に同時に選任さ れる後見人については、誰を選任しても、その決定には明文がないという理由で、不服申立てが許されていない。
 これを判りやすく言い直そう。

後見人をつけるかどうかの裁判所の判断には、上級審で争えるが、誰を後見人にするかの裁判については、決定に従うしかない

  この取扱は、禁治産制度の時代から継承している判断であって、新しいものではない。新成年後見制度になっても同じ決定が繰り返されている。

 禁治産時代の最期の決定は、次のものである。東京高等裁判所決定平成12年4月25日 家庭裁判月報53巻3号88頁、判例時報1723号56頁判例タイムズ1091号277頁

 この事件は、禁治産宣告の申立を行った人が、禁治産宣告と同時に第三者弁護士が後見人に選任されたことを不服として、高裁へ即時抗告したものである。判 例データベースには、抗告理由などが省略されているので詳細が分からないが、裁判所が理解した抗告理由は次の通りである。

 抗告人は、本件抗告において、〔1〕原審で事件本人乙山松子に関する精神鑑定を行った医師の氏名を知らされておらず,その鑑定内容に疑問を感じているこ とから、禁治産宣告の審判に不服があること、〔2〕原審が事件本人乙山松子につき禁治産宣告をした際、事件本人と身分関係のない弁護士○○を後見人として 選任したことは不当であるから不服があることなどを主張するものと解される。


 抗告人の主張を、この二つに分解して、それぞれに見ると、まず1)については、禁治産宣告の申立に対して禁治産宣告を行ったのであるから不服申立はできない、こういうことになる。条文も「申立却下に対して」不服申立ができるとなっている。

一 禁治産宣告の申立人は、禁治産者宣告の審判に対し即時抗告をすることはできない。


 ついで、弁護士を選任したことへの不服については、後見人選任の審判に即時抗告をすることができる旨の規定は存しないと述べる。

二 禁治産宣告の審判と同時にされた後見人選任の審判に対し、独立して不服申立てをすることはできない。


 さて、この禁治産宣告の申立人は、家裁の裁判のなにに不満だったのか。これは、自分が後見人になるつもりで禁治産宣告を申立たのに、違う人が後見人になった、そ れなら禁治産宣告などないほうが良かった、こういうことではないか。1)と2)とに抗告理由を分解してしまうと、ここが見えなくなる。

 なお、この事件については、高田昌宏教授が解説を書いておられる(平成14年度重要判例解説)


 もう一件、判例を挙げよう。
  東京高裁決定平成12年9月8日家庭裁判月報53巻6号112頁は、母親について後見開始決定が行われ第三者である弁護士が後見人に選任されたが、抗告人である実子が、介護については抗告人が成年後見人になる必要があるとして、原審が選任した弁護士と二人で共同後見を求めて抗告を行った事件である。次のように理由を記載して、抗告を許さないとしている。

 「本件成年後見人の選任は後見開始に付随してされた審判というべきものであり、成年後見人選任に関する審判に対して不服申立を認める旨の規定がないこと (家事審判規則二七条二項は、後見開始の審判を申し立てた者について、同申立を却下する審判に対して抗告することができる旨を規定するにとどまる。)から すれば、成年後見人選任の審判に対しては独立して不服申立をすることができないと解される。なお、本件抗告の理由によれば、抗告人は、成年後見人を二名と し、前記弁護士を財産管理担当に、抗告人を介護担当に選任することを求めているが、これについては、成年後見制度の新設に伴う改正後の民法によって、家庭 裁判所に対し成年後見人の追加的選任に関する申立をすることが可能となった(民法八四三条三項)のであるから、その審判手続において、複数の成年後見人選 任の要否並びに選任する場合における相互の事務ないし権限の各内容、範囲及び相互の関係等を具体的に審理したうえで判断されるべき事項であり(民法八五九 条の二第一項参照)、これらの点について抗告の対象とすることは許されない。」


 共同後見を求めてきた抗告人に対して、即時抗告を許す明文がないという理由で抗告を門前払いしているわけであるが、「なお書き」で、追加選任手続で審理すべきであると書いている。この決定については、私は批判を書いたことがあるが、原審が読めておらず適切を欠いていた。即時抗告を許す明文規定がないことを前提に、共同後見を求めるのであれば、もう一度、申立てをしなさい、そういう判旨なのであろう。

 しかし、なぜ抗告審でそれができないのか。結局、明文がないからだ、というところに尽きる。明文がないから一からやり直しなさいとは、裁判所というところは、なんだか不親切なところだと抗告人は思ったに違いない。

 さて、町村先生にご紹介いただいた判例は、こうした先例を継承しているわけである。ただ、上記の先例と少し赴きが違う。

まずは、この裁判の決定を示そう。

 

抗告人は,原審判が,本人の成年後見人として,本人の先妻の子であるAを選任したのは不当であると主張する。
しかし,審判に対しては最高裁判所の定めるところにより即時抗告のみをすることができるところ(家事審判法14条),成年後見人選任の審判に対し即時抗告 をすることができる旨の規定はない。家事審判規則27条1項は,民法7条に掲げる者は後見開始の審判に対し即時抗告をすることができる旨を規定している が,その趣旨は,民法7条に掲げる者で後見開始の審判に不服のある者に即時抗告の権利を認めたものであり,これと同時にされた成年後見人選任の審判に対し 即時抗告を認めたものではない。
したがって,後見開始審判に対する即時抗告において,後見人選任の不当を抗告理由とすることはできず,抗告裁判所も原審判中の成年後見人選任部分の当否を 審査することはできない。法は,後見人にその任務に適しない事由があるときには,家庭裁判所は,被後見人の親族等の請求又は職権により,これを解任するこ とができる(民法846条)などと定めるにとどめているものである。
(3) よって,本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。


この事件の概要は抗告理由から伺いしることができる。

抗告の理由
1 事件本人に後見を開始することについて異論はない。しかし,後見人としてAを選任することは問題である。
2 抗告人は,抗告人がこれまで通り事件本人の年金で生活し,病気入院などの予定外の支出があるばあいに事件本人の蓄えをつかうことができればそれでよいと考 えてきた。そして,Aと相談し,同人が,このような抗告人の意向に添うと述べてきたので,Aが後見人となることにあえて反対を唱えないでいた。
3 Aは,事件本人の先妻の子であるところ,事件本人が本籍地に所有する宅地をB有限会社に賃貸し,同社はその地でデイケアの事業を行おうとしている。このような行動から,抗告人の兄弟は,Aが事件本人の財産を独り占めしようとしているのではないかとの疑いをもってきた。
4 このような経緯の中で,2006(平成18)年1月14日抗告人とAが話し合いを持った結果,Aは,後見人となることを辞退することを約束した。ところ が,岡山家庭裁判所××支部から1月17日付けで届いた通知書には,Aを後見人に選任する旨の記載があり,Aが後見人を辞退するという約束を破っていたこ とが判明した。
5 このようなAの行動から,同人に事件本人の財産管理を任せると,抗告人自身の生活に支障を来すのではないかとの不安を抱くにいたっている。
そこで,後見人として公平な第三者を選任していただきたく,即時抗告を申し立てる


 被後見人の年金で暮らしているというのであるから、抗告人は後妻さんであろう。で、先妻のお子さんであるAと話し合ってAが後見人になっても年金などは 使えるようにするというので、黙っていたが、どうもAの行動があやしいので、抗告人ご自身の生活が不安になった。それでAを代えてほしい、こういう抗告で ある。

 抗告すること自体が許されないという判断を繰り返しているので、裁判所は中身には立ち入って判断していないが、この抗告理由は、ちょっとどうなんだろう、と思ってしまうところがある。被後見人の利益ではなくて、抗告人の利益の確保が理由になっているからである。
 しかし、成年後見申立は、被後見人の周囲の環境要因を判断する必要があるのであるから、後妻さんの不安も無視はできまい。裁判所も「Aが不適任であれば 解任できる」などというだけでなく、Aの監督業務を適切に行うことが求められよう。実際に、後見人を解任することはそうたやすいことではないのであるか ら。

 とまれ、成年後見人の選任についての家裁の判断には、即時抗告は許されたない、この判断が繰り返されたわけである。学説上もこれを支持している見解が多いと思うが、最近、佐上教授が、家事審判法という大著を信山社から発行されている。その274pで、ドイツでは、人選については、不服申し立てが当然のこととされていると紹介され、わが国の通説・判例に反省を求めておられる。

 後見人が誰になるのか、これは、関係者にとってはとても重大なことである。選任は後見開始決定の付随的なものである、こう考えるのが法律家の説明であるが、実際は「付随的」なものではなく、中心的なものである。多くの場合、候補者として裁判所に示された人が、後見人に選任され、それでとくに問題を生じていないのであろうが、ここに掲げたように、選任された人に関係者から疑義がでることがまれにある。その場合の裁判所の対応として、「不服を許さず」という対応を繰り返すだけでは、成年後見制度の利用をPRすることの大きな足かせになるように私は思う。


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コメント

sakuratorako さま
コメントありがとうございます。ただ、申し訳ありませんがブログ上での個別の法律相談には対応いたしかねます。お急ぎのご様子のようですから、なおさら、お近くの弁護士なり司法書士の先生にご相談ください。

投稿: satosho | 2010/04/11 00:14

老年精神病の人が明らかに後見相当。鑑定書の提出後、不服申し立てました。最高裁でどのくらい期間がかかりますか?鑑定書を書いた医師も呼ばれますか?3ヶ月待つも大変なケースで、即時抗告となってしまったのです。よろしくお願い致します。

投稿: sakuratorako | 2010/04/11 00:02

どうも、ちょっとリキが入ってしまい、ご指摘から時間がたってしまいました。
またお気づきの点があれば、どこでもいいからTBなりでお知らせください。頼りにしてますので(^_^)。

投稿: satosho | 2007/06/26 19:13

先生、解説ありがとうございます。
こんなに深い問題だとは知らずにいたのがお恥ずかしい。

投稿: 町村 | 2007/06/26 17:46

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