ある後見紛争
最近の判例時報に掲載されていた事件である。まだ、データベースなどには登場していない。非常に興味深い事件なので紹介する。
東京地判H18・7・6日 判例時報1965号75p
大正2年生まれの高齢者に関して、養子縁組と任意後見2件、法定後見利用が行われた後、養子の一人から関係者を相手に、最初の任意後見契約の解除の無効、後行する任意後見契約の登記の無効を理由に訴訟提起が行われた事案である。原告の全面勝訴である(控訴されている)
Zは、大正2年生まれで、美容室(株式会社組織)経営者である。
事案が複雑なので、編年体で少しまとめてみた。
昭和18年12月28日 YがZの養子になる
平成12年7月12日 XとAをZの養子にする。(この時点で養子は3名。ほかに実子はいない)。
平成12年7月25日 弁護士L1を受任者とする任意後見契約1および財産管理契約が締結される。任意後見契約は同30日登記
平成13年6月12日 Z(代理人L1)がYを相手に離縁調停申立
平成13年6月13日付け ZからL1へ任意後見契約1の解除通知 翌日到達
(19日付けでL1がZの代理人として、任意後見監督人の選任申立を行っているが、終了登記がなされたため却下・却下日時不明)
平成13年6月19日 Yを受任者とする任意後見契約2が締結
6月20日 解除による任意後見契約1の終了登記
同月28日 Z名義での離縁調停取下書提出
29日 任意後見契約2登記
平成16年(月日不明)Xが本件提訴
請求1 L1が任意後見契約1の受任者であることの確認
請求2 ZとYの間の任意後見契約2が無効であることの確認
請求3 任意後見契約1の終了登記の無効確認
請求4 任意後見契約2の登記の無効確認
平成17年3月15日 Yの申立によるZの成年後見開始決定 後見人弁護士L2選任
平成18年7月6日判決(原告の請求を全面的に認める)
この事件、この判決が対象とした法律関係だけでも複雑であるが、別件訴訟がいくつか出ているようである。だから紛争の全体像は、分からない。
判決の結論を分けたのは、判決文によるとL1弁護士が任意後見契約締結のときに念のためにと受診させていた医師の診断である。平成13年の6月に紛争はクライマックスを迎えたようであるが、同年の3月にはまだ意思能力があり、4月ごろには意思能力がなかったと判決では認定している。
任意後見契約が先行していて、任意後見監督人が選任される前に成年後見の開始が行われる場合は、任意後見契約は存続する(任意後見に関する法律10条3項
の反対解釈)。この場合、後見開始決定の後に任意後見監督人の選任が申し立てられれば、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限
り、後見開始の審判等をすることができるとなっており(10条1項)、そうでなければ任意後見監督人を選任して後見開始決定を取消すことになる。4条1項
2号、同2項。
法の規定は、そうなっているのであるが、そんな事例がそうあるものではないだろう。しかも、任意後見契約が二回も締結され登記されているのである。とても珍しい事件である。任意後見というものを理解するうえで格好の素材である。
ところで紛争研究としても、次のような興味が沸く。
1) 離縁調停の取下げを家庭裁判所は認めているのであるが、これは調査官がZ本人に面会して取下意思を確認している。ところがこの確認は平成13年6月以降
なのである。これは、医師の診断により意思能力がないとされ、本判決でも意思能力がないと認定している4月以降であるから、この取下げは有効なのであろう
か。
2) 本件は控訴されている。被告はY、L1、Zおよび後見人L2であるが、控訴は誰がしているのであろうか。内容的に被告全員が控訴しているとは思えない。現在の段階で、誰との間で何か確認され、確定しているのか。
3) 仮にXとY、Z、L1、L2との間で、L1が任意後見契約1の受任者の地位にあることの確認が確定したとして、その後の手続きはどうなるのであろうか。
終了登記が職権で抹消されることになり(後見登記等に関する政令13条1項2号)、任意後見監督人の選任申立とL2を後見人にした審判の取消しが実際に行
われるのであろうか。興味は尽きないところである。
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