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2007/07/09

反射性交感神経性萎縮症(民訴判例百選68番事件)

 今年の学生は、私にいろんな情報を提供してくれる。へえーと感心することも多い。これもそんなひとつである。
 反射性交感神経性ジストロフィー (RSD/CRPS)。民訴の講義の折に学生が教えてくれた病名である。


まずどんな病気か。
http://www.tqtq.jp/medical/tomosqa/qa_nr_ms.htm
というサイトに掲載されていた『堀内行雄ほか:反射性交感神経性ジストロフィーの病因と病態.MB Orthop.8(5):9~17,1995.』の引用の孫引きをさせてもらう。

 RSD とは、異常な交感神経反射を基盤とする四肢の疼痛疾患の総称であり、灼熱間で代表される疼痛、著しい腫脹、関節拘縮、皮膚の変色を4主徴とする疾患である。
 本病態発現に欠かせない病因の3要素は、持続性疼痛を生じる損傷や疾患の存在、患者自身の素因の存在および異常な交感神経反射の存在である。さらに、本 疾患の特徴は、素因のない人にはほとんど苦痛にならない程度の外傷や有痛性疾患が、本症患者においては耐え難い苦痛として感じられ、異常な交感神経反射を 介して悪循環(vicious cycle)を形成し、腫脹、関節拘縮、皮膚の変色、骨萎縮などが著明となり、適切な治療が行われなければ、最終的には廃用肢になってしまうことである。


 この病気について詳しく知りたい人は下記のサイトがあるようであるが、私は十分、読んでいない。
http://www.takenet.or.jp/~kazukoh/CRPS.html
http://www.rsdfoundation.org/jp_clinical_practice_guidelines.html

 この病気、最近になって医者の間では知られてきているようであるが、なぜ民訴の時間に学生が教えてくれたかというと、民訴判例百選に掲載されている概括的(選択的)事実認定事件の症例がこれではないかというのである。
民訴判例百選86番 (最高裁昭和32年5月10日民集11巻5号715頁)

 RSDは、注射でも発症する。この事件の症例は、心臓脚気の治療としてビタミン剤の皮下注射をしたところ、上膊部(じょうはくぶ・ひじより上の部分)が腫脹し疼痛を伴うようになった。その後、高度の筋萎縮を生じ、運動機能の制限を伴う障害が残った、というものである。

 裁判所は、注射液が不良であったか、注射器の消毒が不完全であったのか、そのいずれかの過誤があったとして医師の過失責任を認めたのであるが、民訴の教科 書類では、この認定を選択的事実認定と呼ぶ。

 注射器の消毒の不完全」も「注射液の不良」もいずれもそれとして証明が十分なわけでない。証明は不十分であるが、注射をしたところが腫れて痛くなったというのなら、注射の仕方が悪かったのであろう、そういう経験則の適用による一応の推定をした上での事実認定である。

 この判決については、一応の推定を使用しつつ患者側の証明困難を救済する手法として支持する見解が多い。

 この事件の注射は、昭和24年(1949年)である。まだRSDが所見として表明された直後であり、日本では十分に知られていなかったのではないか。もち ろんこの訴訟でそうした主張が医師側から行われたとも思えない。主張されれば、事実認定が異なっていた可能性が高いといえるのではないか。というのは、RSDは、その発症は、患者の個体差にもよるところがあり、医師の側で予防する手段が充分明らかにされていないからである。

非常に考えさせられる情報である。

 なお、選択的事実認定を行った同種の事件である最高裁昭和39年・7・28民集18・6・1241は、分娩のときの注射によりブドウ球菌が増殖したという ものであって、反射性交感神経性萎縮症は問題にならない(ように医学の素人である管理人には思える)。

 いずれにしても、裁判は、その当時に得られる知見に応じて、裁判官が経験原則を適用しているわけであるから、こうした最新医学の知見によって過去の判例の事実認定が間違っていたと評価することは、かならずしもフェアだと思わない。しかし、法廷での事実認定が、そうしたもの、つまりそのときの「常識的」なものに影響されていて、かならずしも「科学的」なものではない、ということを教えてくれるように思う。

 紹介した二つの判例については、参考 中野貞一郎 「過失の推認」1978・弘文堂8p

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