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2007/12/29

知らない間に勝訴

旧聞に属する話であるが、こんなこともあるもんだ、という話をメモしておきたい。夏休み前に書いたつもりだったが、書き落としていた。法曹倫理と民訴の双方に関わる話である。


まずは朝日新聞 2003年9月1日 朝刊 の記事である

知らぬ間に「原告」、勝訴 三重・ゴルフ場預託金訴訟 【名古屋】
 三重県名張市に住む60代の男性が知らぬ間に民事裁判の「原告」にされ、しかも名古屋地裁で勝訴していたことが、分かった。敗訴した相手方の控訴状が男 性に届いたことから発覚し、名古屋高裁は、一審判決を取り消した。提訴した弁護士は「依頼人を信用してしまった」と話している..
 
 これは、同県内にあるゴルフ場の会員だったこの男性が「原告」となり、名古屋市のゴルフ場運営会社に預託金1350万円の返還を求めた訴訟で、一昨年11月、提訴された。
 名古屋地裁は昨年3月、「償還延期を決めた理事会の手続きは無効だ」として全額返還を命じたが、会社側は判決を不服として控訴した。
 
 突然届いた控訴状に驚いた男性は、「会員権は提訴の約1カ月前に100万円で大阪府のゴルフ会員権業者に売った。訴訟は起こしていないし、弁護士と会っ たこともない」とする書面を名古屋高裁に提出。弁護士の委任状を男性が調べたところ、署名の筆跡は全く別人で、押印も認め印と分かった。
 
 このため、同高裁は昨年9月、「男性を詐称する第三者が提訴したことは明らかだ」として一審判決を取り消す判決を言い渡した。
 男性は「損したわけではないが、驚いた」と話している。
 実際に弁護士に訴訟の話を持ち込んだのは京都府の男性。この男性が、知人の奈良県の製材業者に会員権購入を勧め、製材業者が大阪の業者から購入した。
 
 朝日新聞の取材に対して京都の男性は、「名義変更には200万円ほどかかるため、そのまま裁判を起こした」と、名張の男性の名前を勝手に使ったことを認めた。
 
 また、製材業者は「京都の知人に言われて話を合わせた。お金が入ってきたら(知人に)一部を渡すように言われていた。申し訳ないことをした」と、弁護士に説明したという。
 
 「被告」となったゴルフ場運営会社からの懲戒申し立てを受けて調査した大阪弁護士会綱紀委員会に対し、弁護士は「以前から同様の訴訟を持ち込んできてい た知り合いの男に、製材業者を紹介された。会員権を持参し、2人から『遠方にいる本人は病気で事務所に来られない』と言われたため信じてしまった」と説明 したという。



 この原告弁護士さんは、「依頼人の確認が甘く、迷惑をかけた」と話していたそうだが、結局、戒告処分を受けている。依頼人の確認を怠ってはやはりまずい。が、依頼人が病気なので事務所に来れない、と言われるケースはちょくちょくある。そのときにどう対応するかが弁護士倫理の問題だが、まったくの偽者を原告にしてしまってはちょっとまずい(たとえ勝訴してもである・念のため)。いまの職務基本規定22条などはどこかに吹っ飛んでしまう(依頼者の意思の確認)。この事件当時は旧弁護士倫理の時代であって職務基本規定の22条はないが同じことである。旧規定の 4条、14条、19条、53条あたりを使うことになろう。
 意外なのは、原告代理 人に名前を記載されている弁護士さんは複数いるのに、戒告を受けたのはこの弁護士さんだけという点。実質的には一人で担当していたということなのだろう。

 訴訟そのものについては、名古屋高裁が平成14年9月4日に却下判決を出し、確定している。民事訴訟法の問題としては、「当事者の確定」の領域の先例で、原告側氏 名冒用訴訟の例になる。原告側氏名冒用で原告勝訴の場合、勝訴した被冒用者にどのような不利益が発生するのか、考え出すと分からないところがあるが、判決 が確定する前に氏名冒用に裁判所が気づけばやはり却下だろう。

 仮に冒用者の勝訴が確定してしまったら、あとはどうなるのだろうか。冒用原告の名前で強制執行に及んだときに請求異議は出せる か。既判力は働くか。これが一昔前の民訴の議論であった。しかし、既判力の有無に関わらず、請求異議は出せるし、被告から再審の訴も提起できる、とするの が最近の考え方のようだ。その限りで既判力の議論がなにかを決定する幅が減少したというべきだろう。

 請求異議ではなく、執行異議(つまり違法執行の主張)が出せるという意見もあるかもしれないが、これはいまの私にはよく分からない。また、被冒用者の方が手続的に関与できる手段は少ない。判決段階であれ執行段階であれ、せいぜい上申書を提出するぐらいであろうか(これはmatimura 先生の意見でそのとおりと思います)。

 判決文は、TKCやレキシスなどで読める。紙媒体の判例集には公式・非公式を問わず未 搭載である。高裁判決の一審取り消し請求却下は、当然の結論であってなんの参考にもならない、ということか。でも教材として授業には使えそうである。

付記: matimura 先生にトラバしていただき、補足していただいている。その意見を本文に反映しました。(07/12/30 Sun)

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» satoshologより、現代の氏名冒用訴訟 [Matimulog]
民訴の勉強をするものにとって格好の教材がsatoshologで紹介されている。 [続きを読む]

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