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2008/03/10

宇都宮冤罪・養子乱用事件その後

 以前、このブログで、2004年に二つの強盗事件で誤認逮捕され、起訴された後に真犯人が判明し無罪となった宇都宮市に住む知的障害のある方の事件を紹介したことがあります。こちらです。
 その後、この方は、捜査が違法であり精神的苦痛を受けたとして国と栃木県に計500万円の慰謝料を求めた国家賠償請求訴訟、また別に、ずさんな年金管理や違法な養子縁組の実態を知りながら必要な支援を放棄したとして、宇都宮市と同市幹部に慰謝料など約八百二十万円の支払いを求める国家賠償請求訴訟を、それぞれ提起していましたが、両請求に対する判決が2月28日にあったようです。


まず捜査の違法を理由とする国家賠償ですが、これは原告勝訴となっています。
新聞報道をみましょう。まず、朝日新聞です

知的障害者に自白誘導 誤認逮捕で慰謝料 宇都宮地裁
 2008年02月28日21時46分

 

 04年に二つの強盗事件で逮捕、起訴された後に真犯人が判明し、無罪が確定した宇都宮市に住む知的障害者が、精神的苦痛を受けたとして国と栃木県に計 500万円の慰謝料を求めた国家賠償請求訴訟の判決が28日、宇都宮地裁であった。福島節男裁判長は「警察官が知的障害者の迎合的である特性を利用し、被 害者供述に合致した虚偽の自白調書を作成した」などと認定。ほぼ原告側の主張に沿って、県警と宇都宮地検の捜査の違法性を認め、国と県に計100万円の支 払いを命じる判決を言い渡した。
 
 
 判決で、福島裁判長は<原告の男性>(新聞には実名が掲載されていますが、ブログに引用するときには必要がないので匿名にしています、以下同じ・ satosho)について「重度の知的障害があり、質問者に迎合しやすいという特性があった」と指摘。そのうえで「自ら詳細に供述したり指示説明したりす るとは考えられず、自白調書などは警察官が大半を一定の方向に誘導して作成された」と県警の取り調べの違法性を認定した。
 
 
 また、供述調書に添付された犯行現場を示す見取り図を「原告の男性が定規を使って書いた」とする県警の主張に対し、判決は「警察官の説明方法で作成され たとするには大きな疑問が残る」と述べた。この点について原告の男性は公判で、「警察官に無理やり手を持って書かされた」と証言していた。
 
 さらに判決は、物証が全くない強盗事件は「自白が最も重要な証拠資料」だったとしたうえで、宇都宮地検の捜査に言及。「自白調書の裏付け捜査を行うべき だったのに行わず、自白調書の信用性を持たせようと、つじつま合わせの調書作成に終始した」と指摘したうえで、起訴自体が違法だったと結論づけた。
 
 

ずいぶん明快な判決です。認容額は、500万円の請求に対し100万円と少ないのですが、判決理由は弁護団の主張にかなりそっているようなので、担当弁護士が判決を評価しているのは頷けます。また、識者が捜査当局におしかりのコメントを出しているのも分かります。

これらは読売に掲載されています。

「捜査の違法性」認定
支援者ら「良かった」県警は「厳粛に受け止め」
 
 「全面的に我々の主張が認められた印象で、非常に満足だ」。判決後、原告ともに記者会見に臨んだ代理人の大石剛一郎弁護士は、こう判決を評価した。



読売によれば、ご本人の判決に対するコメントは次のようです。

 閉廷後、原告の男性は支援者たちに肩をたたかれると、少しホッとしたように、はにかんだ。記者会見では、判決について問われ、「わかんねえな」とつぶやいた。


県警の対応です。

 一方、県警の警務部長は取材に対し、「判決は厳粛に受け止めていますが、今後の対応は、判決文の内容を精査し、国や関係部局とも協議して決めた い」と話した。また、宇都宮地検の次席検事は「判決内容を検討し、関係機関と協議の上、適切に対応したい。このような事件を教訓として、基本に忠 実に適正な捜査に努めたい」とのコメントを出した。


識者のコメントです。

県警、地検猛反省を 
土本武司・白鴎大法科大学院長(元最高検検事)の話「警察が、男性が自主的に記載したかのような地図を作成したことなどが事実であるならば、取り調べが不 適切であるだけでなく、文書偽造になる可能性もあり、言語道断だ。また、検察官の公訴提起までもが違法と指摘されたことは、誠に情けない。刑事訴訟法の施 行から60年がたつのに、まだこんな捜査をしているのか。栃木県警と宇都宮地検は猛反省をすべきだ」
(2008年2月29日  読売新聞)



朝日新聞の上記報道には、事件の経緯が簡単にまとめてあるので、これも引用しておきましょう。

 〈冤罪事件の経緯〉 栃木県警宇都宮東署が04年8月、原告の男性を別の事件で逮捕。その後、ケーキ店とスーパーで起きた二つの強盗事件についても再逮 捕した。宇都宮地検は、男性を強盗罪などで起訴。当初、3件の起訴事実を認めた男性は同年末、強盗罪について否認に転じた。その後、強盗事件につ いては別の男が犯行を自供したことで、誤認逮捕が明らかになった。
 
 宇都宮地裁は05年3月、男性の強盗罪について無罪を言い渡した。これを受けて男性側は同年8月、国と県に損害賠償を求めて同地裁に提訴した。


なお捜査の違法性についての判決要旨は、下野新聞が掲載しています。

誤認逮捕国賠訴訟の判決要旨(2/28)

この事件についての下野新聞の特集サイトです。
http://www.shimotsuke.co.jp/hensyu/kikaku/gonin/index.html

宇都宮市と市幹部(おそらく当時の障害福祉担当部局のトップかと思います)に対する、おかしな養子縁組などに気がついていながら必要な支援を怠ったことを理由とする慰謝料請求訴訟については、なぜかあまり報道がありません。
しかし、棄却になっているようです。下記にそんな記載があります。


日テレニュース(もう見えなくなっています)
知的障害者誤認逮捕で賠償命令~宇都宮地裁<2/28 21:22>l

 栃木・宇都宮市で誤認逮捕された知的障害者が、知らない間に養子縁組されて障害者年金を奪われていた事件で、国と県に責任を問う国家賠償訴訟の判決公判が28日、宇都宮地裁で行われた。誤認逮捕では国と県に計100万円の支払いを命じたが、養子縁組では訴えを棄却した。
 
 原告の男性は、勝手に養子縁組をさせられていた。養父は「養子」の意味がわからない原告の男性をだまし、一年当たり約100万円の障害者年金をだまし取っていた。さらに、原告の男性に対し、暴力を振るっていた。
 
 現在、養父との養子縁組は無効となっている。養子縁組が受理されたことについて、当時、宇都宮市保健福祉部次長は「受理にあたりましては、市町村長には 実質的な審査権はない。形式的な審査権のみある。届け出の記載に誤りがなければ、受理を拒むことはできない」と話している。
 
 男性は、宇都宮市に対して養子縁組の件で訴えを起こしていたが、28日の判決で訴えは退けられた。


 識者の土本先生のお叱りはごもっともなのですが、鹿児島の志布志事件でも「冤罪と呼ぶべきではない」と公言してはばからない方が法務大臣を務めているこの国ですから、他にもまだまだあると思います。とくに知的障害者の関係では、誤認逮捕は多いというのが私どもの実感です。こういう不幸な事態がないようにするためには、警察や検察の努力ももちろん必要ですが、もっと多くの関係者(裁判所や厚労省はもちろん、証言心理学の研究者など)を巻き込んで知恵を出し合うことが必要かと私などは思っています。

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