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2008/06/10

後見人をした妹さんの逮捕

報道的にはすでに旧聞に属すると思うが、世間の流れから遅れるのがこのブログのツネである。

横領:後見人の妹逮捕 寝たきり兄から、3000万円着服容疑--東京地検
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20080604ddm041040187000c.html


 成年後見人の立場を悪用して寝たきりの兄(62)の財産約3000万円を着服したとして、東京地検は3日、妹の会社員(57)=東京 都大田区=を業務上横領の疑いで逮捕した。03~07年に支払われた保険金約1億5000万円も不明になっており関与を追及する。

 

 兄は02年、東京都三鷹市で起きた交通事故で高次脳機能障害になり、現在は中部地方の福祉施設に入所している。容疑者は03年に東京家裁八王子支部から、兄に代わって契約などの法律行為を行う成年後見人に選任されていた。
 
 刑法には、親子や同居親族などの間で起きた盗みや横領などの刑を免除する「親族相盗」という規定があるが、最高裁が今年2月、公的性格の強い後見人にはこの規定は適用されないとの初判断を示し、地検は刑事責任追及に障害はないと結論付けた。

この毎日新聞の記事については、このあいだのNHKの成年後見のテレビ報道と同じスタンスです。そちらに書いたコメントと同じ感想をもちます。
http://www.satosho.org/satosholog/2008/05/post_15e2.html

このあいだのテレビ報道と違う点といえば親族相盗の話がでているぐらいですが、こちらはずいぶん前にこのブログで解説しています。
後見人になると親族でなくなる?

親族相盗の記事で解説したふたつの判決は、また地裁段階でしたが、その後、福島の事件(未成年後見事例)は高裁を経て最高裁の決定が出ているようです。

平成20年2月18日最高裁決定

 ちょっと引用しておきましょう。

なお,所論にかんがみ,被告人Aの業務上横領罪について,職権で判断する(以下,同被告人を,単に「被告人」という。)。
1 本件は,家庭裁判所から選任された未成年後見人である被告人が,共犯者2名と共謀の上,後見の事務として業務上預かり保管中の未成年被後見人の貯金を引き出して横領したという業務上横領の事案であるところ,所論は,被告人は,未成年被後見人の祖母であるから,刑法255条が準用する同法244条1項により刑を免除すべきであると主張する。
2 しかしながら,刑法255条が準用する同法244条1項は,親族間の一定の財産犯罪については,国家が刑罰権の行使を差し控え,親族間の自律にゆだねる方が望ましいという政策的な考慮に基づき,その犯人の処罰につき特例を設けたにすぎず,その犯罪の成立を否定したものではない(最高裁昭和25年(れ)第1284号同年12月12日第三小法廷判決・刑集4巻12号2543頁参照)。
一方,家庭裁判所から選任された未成年後見人は,未成年被後見人の財産を管理し,その財産に関する法律行為について未成年被後見人を代表するが(民法859条1項),その権限の行使に当たっては,未成年被後見人と親族関係にあるか否かを問わず,善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負い(同法869条,644条),家庭裁判所の監督を受ける(同法863条)。また,家庭裁判所は,未成年後見人に不正な行為等後見の任務に適しない事由があるときは,職権でもこれを解任することができる(同法846条)。このように,民法上,未成年後見人は,未成年被後見人と親族関係にあるか否かの区別なく,等しく未成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っていることは明らかである。
そうすると,未成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって,家庭裁判所から選任された未成年後見人が,業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合に,上記のような趣旨で定められた刑法244条1項を準用して刑法上の処罰を免れるものと解する余地はないというべきである。したがって,本件に同条項の準用はなく,被告人の刑は免除されないとした原判決の結論は,正当として是認することができる。

弁護側が主張してる内容を超えて、最高裁が職権で判断したいわゆる「なお書き」判決です。うるさいことを言う人は、これは判例ではないというのでしょうが、こういう書き方をした判断の方が実際上、影響が大きいようです。具体的事件を離れて「最高裁は、ある条文(この件では刑法244条1項)をこう解釈するぞ」、って高らかに宣言しちゃうわけですから。
で、福島のこの最高裁の事案は未成年後見の事件ですが、この文章の「未成年後見」を「成年後見」に読み替えれば、今回の三鷹の事案も同じ解釈になるはず、と東京地検は判断したことになります。まあ、それはそうでしょうね。

やっぱり後見人になると、刑法244条にいう親族ではなくなるのです。

(以下、(08/06/15 Sun)の補足です): 

まえのブログで記載した秋田の事件も地裁から高裁にあがって判決が出ていました。これは成年後見事例です。こちらはインターネット上では、見つかりませんので、判決文を引用しておきましょう。

仙台高秋田支判平19.2.8判例タイムズ1236号104頁
2 法令適用の誤りの論旨について
親族相盗例は,「法は家庭に入らず」との思想の下,親族間で敢行された一定の財産犯罪につき,その法律関係が親族間のみにとどまる場合には,国家が刑罰権の発動を差し控え,行為者と被害者との関係により,行為者の刑を免除し(刑法244条1項が適用ないし準用される場合),あるいは親告罪として刑罰権の発動を被害者の意思に委ねる(同条2項が適用ないし準用される場合)のが望ましいとの趣旨から,刑事政策的に設けられた規定である。したがって,親族以外の者が当該財産犯罪に係る法律関係に重要なかかわりを有する場合には,その者が直接・間接に法益侵害を受けるという意味での「被害者」には当たらないとしても,その法律関係は,既に純粋に「家庭内の人間関係」に限局されたものという性格を失っているとみざるを得ず,その意味で親族相盗例の適用ないし準用は排除されるというべきである。
業務上横領罪は,他人の委託に基づき,業務として物を占有する者が,その委託の趣旨に反し,その物を不正に取得して所有権その他の本権を侵害する犯罪であり,所有権その他の本権をその保護法益としている点で,本権を有する者がだれかということももちろん重要な犯罪要素であるが,行為の特質という面では,むしろ委託者との委託信任関係違背の点を中核的要素とするものであるから,これに親族相盗例が準用されるには,行為者と物の所有権その他の本権を有する被害者との間に親族関係が存在するだけではなく,行為者との委託信任関係を形成した者(この者は,上記の意味で当該法律関係に重要なかかわりを有する者といえる。)との間にも親族関係が存在することを要するというべきである。
そして,被害者の親族が家庭裁判所により被害者の成年後見人に選任され,家庭裁判所の監督を受けながら被害者の財産を占有,管理する中で業務上横領罪を犯したという場合には,その成年後見人は,家庭裁判所の選任・監督という関与の下においてのみ被害者の財産を占有,管理し得る地位を保てるものというべきであるから,被害者との間に親族関係が存在したとしても,親族関係の想定できない家庭裁判所との間で上記のような委託信任関係が形成されている以上,これに違背して行われた犯罪について親族相盗例の準用はあり得ないと解するのが相当である。
この点,確かに,成年後見人が家庭裁判所により選任され,その監督を受けるとしても,成年後見人が占有する財産の所有者が被後見人であるのはもちろん,財産の占有,管理につき,成年後見人と民法上の委任関係にあるのはあくまでも被後見人であり,家庭裁判所と成年後見人との間に,民法上の委任関係があるとはいえないから,成年後見人による被後見人の財産の業務上横領につき,家庭裁判所をその被害者とみることはできない(したがって,家庭裁判所は告訴権者であるとはいえない。本件においても,告訴をしているのは被告人の後任の成年後見人であり[甲2],家庭裁判所は告訴を行っておらず,家庭裁判所長が告発をしている[甲1]。)。しかし,このような事案で家庭裁判所がいわゆる「被害者」には当たらないとしても,その点が親族相盗例の準用を排除する際の妨げにならないと解すべきことは前示のとおりである。
次に,成年後見制度の実態やそこにおける成年後見人の特質等につき,より具体的にみると,成年後見制度は,精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあり(民法7条),自ら適切な財産管理をすることができなくなった被後見人のため,家庭裁判所の選任,監督の下,成年後見人にその財産を占有,管理させ,もって,被後見人の財産を保護することを目的とした制度である。そして,一定の親族が後見開始の審判の請求権者とされていること(民法7条),被後見人の日常生活の実情を把握していることや費用の点などの事情から,実際には被後見人の親族が成年後見人に選任されることが多いのであるから,そもそも,親族であるからといって,成年後見人が被後見人に対して犯した財産犯罪につき,国家の刑罰権の干渉を差し控えるべきであるという配慮を要するものではなく,かえって,家庭裁判所の選任,監督の下に成年後見が行われる以上,成年後見人による被後見人に対する財産犯罪などの不正行為については,国家が責任をもって,厳正な対処をすべきであるとの要請こそ一段と強く働くというべきである。さらに,成年後見人による(業務上)横領罪の被害者である被後見人は,上記のように精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者であり,被害にあった際,自ら加害者を告訴するなどの適切な対処をすることには困難を伴うのが通常であって,この点も,上記の要請を一層強く働かせるべき要素といえる。
なお,前記のとおり,行為者との間の委任関係が民法上は行為者と被後見人との間に成立するものであり,家庭裁判所との間に成立するものではないとしても,被後見人が上記のように精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者であり,被後見人本人が事理弁識能力を回復している時期に本人による請求がされることもあるが,基本的には,本人以外の親族等や検察官の請求により家庭裁判所が成年後見人を選任するものであること(民法7,8条,843条1項)からすれば,実質的には,被後見人の財産管理を成年後見人に委託するのは成年後見人を選任・監督する家庭裁判所であるということができる。したがって,刑法上の業務上横領罪との関係で,家庭裁判所を,成年後見人に対し被後見人の財産の管理を委託する者と解すること自体十分な根拠・理由があるというべきである。
以上のような親族相盗例の趣旨及び成年後見制度の趣旨・実態等にかんがみれば,家庭裁判所の選任・監督の下に被後見人の財産を占有・管理する成年後見人が犯した業務上横領罪については,たとえ被後見人との間に刑法255条が準用する同法244条1項ないし2項所定の親族関係があったとしても,親族相盗例の準用はないというべきである。
所論は,公務所の命令を理由に自己の財物等に対する窃盗罪や横領罪が成立する場合について,刑法242条や同法252条2項によりその処罰根拠を明らかにしているのであるから,成年後見人を選任・監督する家庭裁判所との親族関係がないという理由で親族相盗例の準用を除外するには,その旨を明文で規定することが,罪刑法定主義の要請である旨主張する。
しかし,刑法242条や同法252条2項は,犯罪の構成要件に関する規定であり,まさに罪刑法定主義の要請により,窃盗罪等の対象である「他人の財物」と同等にみなすべきものを明文で規定しているものである。これに対し,親族相盗例は,犯罪の構成要件についての規定ではなく,犯罪が成立することを前提に,その刑を免除する場合や公訴提起の条件として告訴を要する場合について規定したものにすぎないのであるから,刑法242条や同法252条2項と同列に論じることはできない。行為者は,刑法235条や同法253条の規定により何が刑法において禁じられた窃盗罪や業務上横領罪に該当する行為であるかについて事前に認識し得る状態におかれているのであるから,犯罪が成立することを前提に,例外的に刑の免除があり,あるいは告訴が公訴提起の要件になるというにとどまる親族相盗例につき,それ自体が相当にあいまいで不明確な規定であるならば格別,その規定の解釈につき所論のような反対説があり得るというだけでは,罪刑法定主義ないしその精神に反する規定の仕方であるということはできない。
また,所論は,成年後見人について親族相盗例の準用を認めても,家庭裁判所は,成年後見人による後見事務を監督し(民法863条),その後見事務に問題があれば成年後見人を解任し(同法846条),新たな成年後見人を選任できる(同法843条2,3項)し,新たに選任された成年後見人は被害者の法定代理人として解任された成年後見人を告訴することができる(刑訴法231条1項)から,何ら被後見人の保護に欠けるものではないとする。
しかし,刑法244条1項所定の親族が成年後見人になった場合(実態としては,同項所定の親族が成年後見人に選任されることが最も多いとみられる。),親族相盗例の準用があるとすれば,(業務上)横領罪を犯した成年後見人の刑が免除されることになるが,そのような結果が被後見人の保護に欠けることは明らかである。そして,親族相盗例の準用の当否につき,同条1項と2項の場合を区別すべき合理的な根拠は何ら見いだすことができない。よって,所論は採用し得ない。
以上のとおり,本件に親族相盗例の準用があることを前提とし法令適用の誤りを理由に公訴棄却の判決を求める論旨は理由がない。

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