自立支援法訴訟 (続) 訴訟のオトシドコロは?
昨日の自立支援法訴訟エントリーの続きです。
調べれば調べるほど、分からなくなります。
原告側の請求の趣旨(求める判決)を見てみると、次の4つのようですね。
1 これまでの介護給付費の不支給決定(却下決定)の取消し
2 いわゆる一割負担部分についても支給せよ(義務づけ訴訟)?
3 一割負担部分も支給を受ける地位にあることの確認
4 不支給額の損害賠償
このうち1から3までは国が被告ではなくて、地方自治体が被告のようです。4について国が被告になっています。
1から3は、自治体によってどんな答弁をしているのか、よくわかりませんが、原告本人の訴訟能力を争ったり、訴訟手続きが間違っているとか、確認の利益が
ないとか、訴訟技術的な主張がすでにでているようです。自立支援法が廃止になって新しい制度になれば、議論の実益なし、ということで訴え却下の主張が加わ
ることは予想されます。
しかし、4については、訴えの利益なしとは言いにくいでしょうね。そこで、この部分について国側が、和解の打診をするということはあり得るかも知れません。ないかもしれません。大臣も記者会見で言葉を濁していたようです。
1から3までがメインの訴訟、もっといえば自立支援法の憲法違反を強く主張することに狙いをもった訴訟ですから、4のところで和解といわれても、そう簡単に合意ができるとも思えないところです。
金額の問題に限っても、一割負担部分の請求ですから請求額はあまりたいした金額ではありません(20万とか50万とか)。かりに和解をするとすれば、請求額を大幅に超えた和解金額を提示されないとOKとは言いにくいでしょう。
この訴訟は、金銭賠償目的の訴訟ではもちろんなく、提訴時の主目的は自立支援法の廃止に向けた運動にあります。一緒かどうかはわかりませんが、基本的な
認識は民主党と弁護団と共有していて、この訴訟の目的は裁判外ですでに達成されてしまったということになります。この成果が提訴を通じて実現されたのか、
それとも提訴とは関わりなく実現されたのか、見方は分かれるでしょうが、なにも影響がなかったとは考えがたいところです。また、訴訟提起の中で、いろんな
課題をあきらになってきているようです。
これまでの提訴の成果としてを、そのようなものだと評価するにして、訴訟そのものとしては、現段階では、目的が不明確になった司法的運動(リーガルアドボカシーにしてシステムアドボカシー)ということになりそうです。
そこで、この司法的運動にどう落としどころをあたえるのか、これが原告・被告双方に課せられた課題になってくるでしょう。
私としては、次の二つに関心があります。
1 このまま訴訟を維持して、廃止されるであろう自立支援法について憲法判断を仰ぐのか?。司法判断を回避される可能性もありますが、違憲ではないと判断される可能性もあります。廃止されることが決まっている法律についてそのようなリスキーな訴訟追行を弁護団が行うのか。
2 かりに和解をするとして、金銭以外の条項を国との間でいれないと弁護団としては、和解しにくいのではないかと思います。その場合、総合福祉サービス法
の中身についてなんらかの手当を要求したり、障害者行政についてのなんからの国の活動を要求する和解条項が主張される可能性があります。そのような和解が
かりに成立した場合、提訴原告以外の国民にどのような影響があるのか、これが大変に興味ある問題です。
提訴原告は、新聞によって数が違うのですが、60人前後と思われます。その人たちと仮に和解したとして、そしてその和解の中に国の障害者施策に関わる内
容が入ったとして、この訴訟に参加していない障害当事者の人たち、あるいは障害をもたない国民は、この和解に法的に拘束されることはありません。
しかしまったく影響を受けないとは言い切れません。その影響をどのように理解するのか。自分のことは,自分で決めるという基本的スタンスが正しいとして、自分がまったく関与していない和解や判決の事実上の影響をどう考えればよいのか。
司法を通じた、それも和解を通じた政策提起は、障害者の問題にとどまらない、現代社会におけるシステムアドボカシーの役割と問題点、裁判の社会的役割を考えさせる大変に興味ある論点です。
これまでにこの訴訟に注がれた関係者のエネルギーは膨大なもののようです。オトシドコロが非常に難しい訴訟になりましが、それゆえに、これからこそ、むしろ注目されてしかるべきです。
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