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2010/05/04

欠席者が勝訴した欠席判決

ときおり研究室で古い資料を整理すると、いろんなものが出てくる。
ちょっと前に昔、コピーしていた欠席判決の判決例が出て来た。実はメモを失って探していたものだ。こんなものに目を向けるから整理がすすまないのであるが、整理のまえに読んでしまう。

東京地裁昭和39年12月17日 下民集15巻12号2957p 「ホステスの顧客飲み代肩代わり無効判決」

 ホステスという呼び方が、いまも業界で生きているのかどうか分からない。テレビなどを見ていると若い女性がキャバクラ嬢に就職したいなどという報道がまことしやかに流れているが、このキャバクラ嬢というのとホステスという呼び方との差異も私にはわからない。いったこともなければ、行く気もおこらない。が、そんなことはどうでもよい(苦笑)。

 この事件は、原告はキャバレーの経営者で、そこで指名客を4人ほど持っていたホステスに対して、客の未払い代金の支払いを求めたものである。事実関係は以上であり、きわめて単純。

 下民集という公式判例集に掲載されている事件であるが、なぜか最高裁ホームページには出ていないようだし、そんなに長くないので、下記に引用しておこう。

東京地裁昭和39年12月17日 下民集15巻12号2957p

貸金等請求控訴事件
東京地方昭三九(レ)第三〇七号
控訴人 クラブ朝明ことX
被控訴人 Y

       主   文

本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。

       事   実

 控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人は控訴人に対し一七、九六〇円およびこれに対する昭和三九年四月一三日以降右支払済みまで年五分の割合の金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、請求原因として次のとおり述べた。

一、控訴人は銀座においてキヤバレーを経営しているが、昭和三七年一一月一九日に被控訴人をいわゆるホステスとして雇用した。

二、控訴人はいずれも右キヤバレーにおいて左記の日に被控訴人の接待を受けて飲食した左記の四名に対して左記の飲食代金債権を取得した。

     客        日              金額
(一) 向井某 昭和三七年一二月一二日  五、二二〇円
(二) 片柳某 同日                三、五四〇円
(三) 中里某 同月一八日           四、二〇〇円
(四) 井沢某 同月二二日           五、〇〇〇円

   右合計 一七、九六〇円

三、被控訴人は、控訴人に雇入れられるに際してなした、被控訴人が接待に当つた顧客の飲食代金についてはその責に任ずるとの約旨に基き、右四名が控訴人方で飲食した当時右四名の飲食代金債務を各自につき一〇、〇〇〇円の限度で保証する旨約した。

四,よつて控訴人は被控訴人に対し右四名の債務合計一七、九六〇円の支払と、右支払を求める旨記載した本件訴状が被控訴人に送達された日の翌日である昭和三九年四月一三日以降右支払済みまで右金員に対する民事法定利率年五分の割合による金員の支払を求める。 

 被控訴人は適式な呼出を受けながら原審および当審の口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面を提出しない。(下線:satosho)

       理   由

 民事訴訟法第一四〇条第三項(現行法159条3項:satosho)により被控訴人は控訴人の請求原因事実を全部自白したものとみなす。
 右事実によれば、控訴人は本件保証契約により自ら客から取立てるべき飲食代金を自己の被用者である被控訴人に支払わせ得るわけであつて被控訴人の負担において一方的に利益を得る結果となることが明らかである。このような場合、被控訴人と客との間に何らかの特別な関係があつて、そのために被控訴人が右のような一方的な不利益を忍んでもなお本件保証契約を結ぶに至つたというような特別な事情があり、従つて被控訴人に保証債務を負わせても社会正義に反しないと認められるならば格別、そうでないかぎり右契約は控訴人が被控訴人に対する使用者であるという優越的な地位を利用して、経営者の負担すべき危険を回避して労することなく客の代金の回収を図ることを目的とするもので、単に客の接待係として雇用したにすぎない者に対し不当に不利益を強いることとなり、善良な風俗に反し無効であると認めるのが相当である。そうして本件において被控訴人がたまたま右四名の接待に当つたということ以外に、被控訴人が本件保証契約を締結するについて前記のような特別な事情があることは控訴人が何ら主張立証しないところである。従つて本件保証契約は無効であるから、控訴人の請求は理由がない。
 よつて控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条および第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 上野宏 川上泉 青山正明)


この事件のおもしろい特徴は、被告となったホステスが第一審(新宿簡裁)も控訴審(東京地裁)も全部欠席、答弁書も出さなかった経緯のもとで、被告ホステスを勝訴(請求棄却)させている点である。つまり欠席した人が勝っちゃった事件。

被告が答弁書も提出せずに、口頭弁論に欠席を続ければ、擬制自白が成立する。判決に熟せば判決を下す。これを欠席判決と呼んでいる。しかし、日本の現行法では、欠席判決という呼び方は、いささかミスリーディングであって、日本の欠席判決は「欠席をしたことを理由とする判決」ではない。欠席>擬制自白>判決、という具合に欠席と判決のあいだに擬制自白をかませていて、擬制自白によって事実認定ができるので判決をするという制度になっている。

現行法は、これに審理の現状に基づく判決を加えているからさらに話がややこしくなるが、それはさておき、この判決は、欠席したことがダイレクトに敗訴に結びつかない日本の欠席判決の性格を、非常にわかりやすく示してくれる貴重な教材だと思う。

ところで判例としての判示事項は、ホステスの顧客債務の保証契約が公序良俗に反して原則無効である、というものであるが、この点については、最高裁昭和61年11月20日判決が、公序良俗に反しない場合があるとする事例判決を行っているところであり(最高裁判決のサイト)論議を呼んでいるようである。この昭和39年の判決では、この問題について、無効とならない例外的な特段の事情を、原告側が主張立証しないという間接反証説示を行っている点も興味深い。欠席と合わせ技なのであるが、真性の欠席判決だとこの説示も不要となるわけである。

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