成年後見法学会で聞いた話2
成年後見法学会で聞いた家事審判法改正動向のその2は、申立の取り下げ制限である。現在、成年後見などの申立は自由に取り下げができる。これを制限しようという意見が法制審議会ででているらしい。
詳しい理由や内容は学会でポツリと言われただけなので分からない。以下は推測である。
現在の成年後見審判の手続は、後見人の選任については、裁判所の専権とされていて、申立にあたって申立人が推薦する候補者に拘束されない。紛議事例では、申立人が推薦した候補者が選ばれることはほとんどなく,第三者の専門家後見人が選任されるのが普通である。このときにも申立人から高裁へ不服申立てが起こされ、審判が確定しないので、その間に取下げ、というケースがある。これが取り下げの乱用だといわれるケース。しかしこれ以外にもある。
まったく紛議がなく、ごく普通に暮らしている親子の家庭において、親が「親亡き後を心配して」申立を決意し、さりとてほかに後見人を引き受ける人も見あたらないので、とりあえず自分を後見人候補者にして申立をしたとるする。裁判所の調査官が、その親御さんに面接してみると、調査官の目から見てちょっと癖のある人のようで、加えて高齢なので「この親御さんでは不安だ」と思ったが、なかなかご本人に面と向かって言えないので(ほんとは言った方が良いと思うのであるが、そこは法手続とはいえリアルな人間関係である)、とりあえず裁判所から専門職団体に問い合わせをして第三者後見人の推薦をえて、その方を後見人にして審判を出す(そんなことがほんとにあるかどうか、あるとしてそんなに頻繁なことかどうかは別である)。
さて、審判書を見た親御さんは驚く。自分ではない、なんだこれは、、と思い裁判所に怒鳴り込むが、不服があっても争う手続きはありませんと冷たくいわれ、それでも不服を言いたいのなら手続きとしては高裁に抗告という手続があります、と教えられる。取りあえず抗告をするが、あちこちの法律相談に駆け込んでも、後見人の選任に文句をつけても覆ることは現在はない(選任の是非は高裁では扱わないから)、と教えられてて、やむなく成年後見の申立自体を取り下げる(これも法律相談で教えられるのであろう)。
これは家裁が審判が出したあとに、審判の確定を妨げるためだけに抗告をして、そののちに申立を取り下げる行為となり、裁判所サイドからみれば「申立権」あるいは取り下げ権限の乱用と評価される。現在は、そう評価されても、そうした権能が申立人にあるので、裁判所側もよほどのことがない限り取り下げを認める。(かならずということではないと思う・非訟には処分権主義の適用がないので)。
そこでこうした「乱用的」取り下げを制限して、いったん申立をした以上、親の勝手は許さないという法制度に変更しようという意見がでているのではないか、と想像しているのである。
法律家サイドからみれば、まことにもっともという意見が多いように思う。そんな研究者の論文もいくつか拝見した。
ただ、それでいいのだろうか。これは申立をした親御さんからみれば、裁判所や法律家からだまし討ちを食らったという思いを払拭できまい。もちろん、虐待まがいのことをやっている家族もいるので、家族の勝手を許さないという立論もケースによっては説得力もあるが、日本の障害者の家族や高齢者の子供が、すべて虐待行為を行っているとはいえまい。不意打ち、だまし討ち、これは処分権主義の適用があろうがなかろうが、裁判所の手続きとしてあってはならないことだと思う。
乱用的取り下げを制限するより、公的申立(検察官?、市町村)の方をより充実すべきだ、というのが私の考えである。でも、これは予算がいる。カネのかかることはとにかくやめて、家族を「権利擁護だよ」とおだて上げて申立をさせて、家族の意見もなにもかも無視して、本人の財産を(相続がからめば、家族の財産全部ということもある)、第三者に全部ゆだねてしまおう、いじわるな見方をすれば、そんな法改正になる可能性がある。その方がご本人とって良い場合ももちろんあるとは思う。しかしである。
私は、後見人選任についての不服申立を認めない現在の法解釈を前提にする限り、取り下げを制限することは、申立人の手続権を侵害していると考えるので、取り下げ制限には反対である。
もっとも、この問題はかなり歴史的経緯も入り組んでいて専門家の間でも議論がかなりある。もう少し調べてみたいところであるが、とりあえず今現在の意見と理解されたい。
さて、このあいだの成年後見法学会で聞いた話は、まだまだ続く。
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コメント
(10/06/11 Fri)に文章の加筆訂正を行いました。
投稿: satosho | 2010/06/11 21:41