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2010/07/23

青森の逸失利益判決

去年の暮れに青森地裁で、事故で死亡した重度障害者の損害賠償につき、就労可能性を認め最低賃金を基礎に算出して逸失利益を認めた判決があったことを紹介しました。紹介記事はこちら
そのときは、控訴されるかどうか不明であったのですが、最近の判例時報をみると地裁で確定したようですね。

青森地裁判決平成21年12月25日 判例時報2074号113頁


どうでもよいコメントを二つ。
その1、クリスマスの日に判決ですね。これは知的障害者に対するクリスマスプレゼントなのかな。
その2、言い渡し当日に判例データベースに判決内容がのることがある昨今、この判決は、半年以上たって掲載されています。ちょっと時間がかかりすぎの印象ありです。

とまれ、判決の該当部分だけ紹介しておきますね。
この判決は、被害者が居住していた施設で、同じ施設の利用者から暴行を受けていたこと、入浴に際して施設職員の過失により死亡したこと(てんかん発作をおこしたようですね)を認めて、被告社会福祉法人の法的責任を認めた上で、損害論を展開しています。以下は、その部分の中の逸失利益に関わる部分です。


  (4) 亡一郎の逸失利益について
   ア 亡一郎の基礎収入について
 (ア) 上記認定のとおり,亡一郎は,重度の知的障害を有しており,寮等の知的障害者支援施設において,就労も視野に入れた基本的な生活知識や技術等を教育されていたものであり,本件死亡事故当時には,身体的機能については何ら問題はなく,絵や写真等により行うべき作業を示されると,その内容を理解することができ,ドリルによる穴開けや釘打ちなど,危険性を伴うものの,操作自体は容易である工作機械や工具を用いた簡易な作業を行うことができたほか,平仮名や片仮名については読むことができたものである。
 他方において,亡一郎は,就労において必要不可欠というべき社会的規範やルール等に対する理解やコミュニケーション能力等において,なお不十分であったといわざるを得ず,このような亡一郎の状況に鑑みれば,直ちに一般的な就労可能性があったとするのは困難というほかない。
 しかしながら,亡一郎は,本件死亡事故当時は16歳であり,養護学校の高等部や寮での教育・生活指導を受けることで,その卒業時までにおいてもさらに成長することが期待され得るというべきである。そうすると,亡一郎は,養護学校の高等部卒業時点において,他人の支援や介助を全く必要とせずに就労することが可能となるまで成長しえたというのは現実的に困難であるとしても,かかる支援や介助を得ながらであれば,亡一郎は簡易単純な作業には十分に従事しうるまでに至っていたものと考えられるところである。
 さらに,今後の医学,心理学,教育学等の進歩,発展等を考慮すれば,現在,完治という意味においては治療不能とされている自閉症に対する治療法が見出される蓋然性があるとまではいえないとしても,自閉症を含む知的障害者に対する指導,支援の方法について,徐々にではあってもより効果的な手法をもたらす知見が得られる蓋然性はあるというべきであって,このような見地に立つと,亡一郎が,上記のような生活支援及び就労支援を受けながら,一定の作業に従事しつつ,社会生活を営むことにより,将来,さらにその能力を高め,より高度な労働に従事し得る能力を獲得する一方,就労に際して障害となる行動的特徴をより抑制することが可能となる蓋然性もあるというべきである。
 以上の点を総合考慮すれば,亡一郎には,健常者と同程度の就労可能性があったとまではいうことができないものの,一定程度の就労可能性はあったというべきである。
 (イ) 原告らは,亡一郎の逸失利益の算定に際し,賃金センサスにおける全年齢の平均賃金を基礎収入として計算すべきであり,賃金センサス平成14年第1巻第1表産業計全労働者の平均賃金額である494万6300円を基礎収入とすべきと主張するところ,この主張は,亡一郎に一般企業への就労可能性があったことを前提にするものと解される。
 確かに,上記認定のとおり,現在,障害者雇用の促進やノーマライゼーションの観点から,知的障害を有する者を含む障害者の雇用を積極的に行っている一般企業も増えつつあり,一般企業における知的障害者の就労機会は徐々にではあっても拡大しつつあるといえるから,亡一郎が将来的に一般企業に就労する可能性が全くなかったとまではいうことができない。しかし,上記認定のとおり,現状としては,このような企業は依然としてごく少数であり,その受け入れ可能な定員も必ずしも多数とはいえず,平成10年から平成19年までに養護学校の高等部を卒業した169名のうち,一般企業へ就労した者は僅か3名であることに照らしても,知的障害を有する者が一般企業で就労することが極めて困難であることは否定できない。そして,仮に亡一郎が一般企業に就労することができたとしても,現在において予測可能な範囲においては,重度の知的障害を抱える者が健常者と同程度,同内容の労働を行うことは,その将来にわたる発達可能性を考慮しても不可能であるといわざるを得ず,労働の対価として健常者と同程度の賃金を得ることも極めて困難であるというほかないのであって,重度の知的障害を抱える者の賃金水準を可能な限り健常者の水準に近づけることが理想的であり,行政や企業においてこれを実現しうる施策等をとることが望ましいとはいい得るにしても,上記のような現実は直ちには動かし難いというほかない。以上の点に鑑みれば,原告らが主張するように,亡一郎の逸失利益の算定において,賃金センサスの産業計全労働者の平均賃金額を基礎収入とすることはできないといわざるを得ない。
 したがって,原告らの上記主張は,理由がないというほかない。
 (ウ) もっとも,上記説示のとおり,知的障害者が一般企業へ就労する機会が増えつつある現状に鑑みれば,健常者の賃金水準には劣るとしても,知的障害者がその有する能力を十分に活用することができる職場において就労する機会を得て,授産施設における作業による賃金と比較すれば高水準の賃金を得ることも可能な状況になりつつあるということができ,このような状況は,障害者に対する理解が遅々としたものではあっても徐々に深化してきていることを示すものというべきであって,今後も将来にわたって,知的障害者がその能力を十分に活用することができる職場が徐々に増加することを期待し得るものというべきである。
 他方,上記説示のとおり,死亡当時16歳にすぎなかった亡一郎も,今後の長い社会生活の中で,徐々にではあってもその就労能力を高めることができた蓋然性があるのであるから,上記のような知的障害者雇用に関する社会条件の変化をも併せて考慮すれば,後に説示するとおり約50年にもわたる就労可能期間を残して死亡した亡一郎が,自閉症を含む重度の知的障害を抱えながらも,その就労可能な全期間を通して相当の賃金を得ることができた蓋然性を否定することはできないというべきである。
 (エ) 以上に説示したところによれば,亡一郎は,その就労可能な全期間を通して,一定の生活支援及び就労支援を受けることを前提として,少なくとも最低賃金額に相当する額の収入を得ることができたと推認するのが相当であるというべきである。したがって,亡一郎については,最低賃金額を基礎収入として逸失利益を算定すべきである。
 (オ) ところで,原告らは,青森県における平成16年度の最低賃金額に基づく亡一郎の基礎収入の算出において,1日あたり8時間の労働時間と1か月あたり25日の稼働日数を前提とする計算を行っている。
 この点,1日あたりの労働時間については,重度の知的障害を有する者であっても,8時間の労働をこなすことが不可能であるとすべき根拠はないというべきであるが,1か月あたり25日の稼働日数を前提とすれば,毎月の休日が5日ないし6日ということになり,健常者の一般的な就労状況と比較しても,過重な稼働状況であるといえる上,重度の知的障害を有する者にとって,1日あたり8時間の労働を連日にわたって行うことは身体的に相当の負担となるものと考えられるから,上記の程度の休日を前提として1か月あたりの稼働日数を考えることは相当でないというべきである。
 以上の点を総合的に考慮すれば,1か月あたりの稼働日数は,20日とするのが相当というべきである。
 そして,弁論の全趣旨によれば,平成16年当時の青森県の最低賃金額は605円であると認められるところ,以上の認定説示を前提に,亡一郎の基礎収入を計算すると,以下のとおり,年額116万1600円となる。
 青森県の1時間あたりの最低賃金額 605円
 1日あたりの収入(8時間労働) 4840円
 1か月あたりの収入(20日間稼働) 9万6800円
 年収(基礎収入) 116万1600円
   イ 亡一郎の生活費控除について
 原告らは,亡一郎の生活費控除率を5割として逸失利益の計算を行っているが,既に説示したところによれば,亡一郎は,重度の知的障害者として,日常生活において様々な支援や介助を受けることを要し,医薬品等に係る自己負担分の費用の発生も見込まれるというべきであり,その就労の際にも支援や介助を要することは否定しがたいものといわざるを得ない。そして,このような支援や介助を受けることについて,亡一郎においても一定程度の経済的負担を余儀なくされることが見込まれるというべきであって,亡一郎の生活費として支出されるものとすべき金額は基礎収入の5割を超えるものと考えざるを得ない。
 そして,諸般の事情を総合考慮すれば,亡一郎の逸失利益を算定するに当たっては,その生活費控除率は7割とするのが相当である。
   ウ 中間利息控除
 亡一郎の就労可能期間については,18歳から67歳までとするのが相当である。そして,中間利息控除においては,ライプニッツ係数を採用して計算するのが相当であるところ,ライプニッツ係数の値は,死亡当時16歳10か月であった亡一郎が就労可能な67歳に至るまでの期間に対応する18.256から,18歳になるまでの就労前期間(約1年2か月)に対応する0.952を控除した17.304となる。
   エ まとめ
 以上によれば,亡一郎の逸失利益の額は,以下のとおり,603万0098円と算出されるところ,これを各原告が2分の1ずつ相続した結果,各原告が請求できる金額は,301万5049円となる。
 1,161,600×(1-0.7)×17.304=6,030,098

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コメント

私の場合をご紹介いたします。
この事件は、平成8年10月14日の交通事故で脊髄症などによる両下肢の著しい障害として佐賀県より平成11年2月22日身体障害者手帳2級の認定を受け、当然に医療機関でのEBMにより頸椎手術後、訴訟提起し相手の主張供述で停止していた私の車両に側面衝突していて、準備書面で私が本線上に飛び出してきたと「夫と共謀し嘘」の供述をして、本人尋問で私の弁護士より現場検証などの資料で追及され「嘘」でしたとの自白があり、一部請求の和解成立し、予後の腰部の手術の予定もあり、医師の指導で平成13年8月28日部分堆弓切除および椎間板切除術後予後の治療の転院先病院の浴室で他患者より些細な事で従前の頸部手術部位を両手で掴まれ押し倒される暴行に遭いその翌年平成14年6月28日再手術を行い、リハビリ治療するも、又、頸椎の頸髄症の診断で身体障害者手帳1級の認定もあり、警察庁の犯罪被害者として佐賀県公安委員会より第1条の2(加重傷害)後遺障害等級2級の認定、および社会保険庁も事後重症の裁定請求で肢体不自由用診断書の提出で障害基礎年金1級の認定もあり、加害者へ提訴し本年8月27日判決があり、逸失利益0、介護請求も認めず0との判示をし、相手の資力により、110万円の判決になり、当然に控訴手続きに至っています。あす弁護士打ち合わせです。その為に交通事故の自賠責保険請求も停止、留保の状態です。

投稿: 塚原信夫 | 2010/08/31 23:42

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