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2010/11/07

保育園の動静把握義務ならびに事故対応

「上尾市立上尾保育所内における園児の死亡事故に関する国家賠償請求について,担任保育士の動静把握義務違反につき重過失を認め,原告らの慰謝料算定にあたってこれを考慮した事例」である。判決自体は昨年の暮れであるが、判決文が最近の判例時報に掲載されていた。
さいたいま地裁判決平成21年12月16日

判例タイムズ 1324号107頁、判例時報 2081号60頁

 園外の散歩から帰ってから1時間以上もたってから一人の園児がいないことに保育士が気づき、保育士が園内外を手分けして捜したが見つからず、知らせを聞いて駆け戻った園長が園内を調べたところ、本棚の奥に隠れている当該園児を発見、病院に搬送したものの熱中症で死亡した、という事件である。


 保育の世界ではかなり有名な事件である。事故後に市側は事故調査委員会を設けているが、それも含めて事故後の対応が、遺族側の反発を呼んでおり、動静把握義務と並んで事故後の対応という点でも注目を浴びた。

 事故そのものについては、保育園側(上尾市側)に法的責任があることは争いになっておらず、争点は「重過失」と評価されるものかどうかである。
 裁判所は、保育士と園児らが、散歩から保育所に帰った際,「園内の人数を確認せず,その後1時間以上もの間,死亡した園児の動静を把握することを怠ったことは明らかであるから,一般的に保育士に求められるべき注意義務の基準に照らして重大な過失があるというべきであると判断し,原告らの請求を一部認容している。

 過失であっても重過失であっても、損害額には変わりがないと思われるかも知れないが、1)国家賠償法上、重過失の場合には保育士個人への自治体の求償権(つまり保育士の個人責任)が発生すること、2)慰謝料の算定で、重過失が斟酌されていること(つまり増額)、に違いが出ている。

 判決文の関連箇所は下記。重過失もさることながら、事故後の説明のまずさを指摘している。このあたり非常に難しいところである。A1、A2は親族、Bは死亡園児である。

 (イ) 次に,本件事故の原因についてみると,上記2に認定したとおり,本件事故は,Bの担任保育士であったK保育士とL保育士が1時間以上もBの動静把握を怠ったこと,そして,Bの所在不明発覚後も,一緒に遊んでいると認識していた他の児童からBの居場所や遊びの内容を聞き出すことなく,散歩から帰ったときに人数確認をしていなかった事実もあって,闇雲に園外を捜し回るなど不適切な捜索活動を行ったことによって引き起こされたものであり,特に,担任保育士らの上記過失行為のうち動静把握義務違反については,重過失とまで認められるのであり,この点も,原告A2及び原告A1の慰謝料を算定するにあたって十分に考慮するべきである。
 (ウ) 本件事故後の事情についてみると,原告A2及び原告A1において,Bがなぜ死んでしまったのか,どのような状況で死に至ったのかといった本件事故の状況を知りたいと思うことは至極当然のことであって,被告としては,その要求に十分配慮してしかるべきであったにもかかわらず,上記1(6)に認定したとおり,上尾保育所及び被告は,マスコミや他の保護者に対する報告説明を優先させ,その報告内容も,報告説明会を開くこと自体についても,原告らには知らせていなかったのであり,原告A2及び原告A1が本件事故当日の経緯について説明を受けたのも,本件事故から10日以上経って原告A2及び原告A1が上尾保育所に連絡をとって初めて実現したものであった。
 このように,本件事故後の原告A2及び原告A1に対する被告の対応は,同原告らの心痛に十分に配慮したものとは言い難く,これらの事情についても原告A2及び原告A1の慰謝料を算定するにあたって考慮するのが相当である。
 (エ) 以上のほか,本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると,原告A1の本件事故による固有の慰謝料として,400万円を認めるのが相当である。」



判例時報の解説によれば、類似判例として、千葉地判平成20年3月27日判例時報2009号116頁(幼稚園の敷地にそって存在する用水路に園児が転落して死亡した事件)と福岡地判平成15年1月30日判例時報1830号118頁(うつぶせに寝かされた生後4ヶ月の乳幼児が窒息死した事件)があるそうである。

ちなみに、余計なことかだが、判例時報と判例タイムズの解説は同じ文章が掲載されるものだと思っていたが、本件では違っている。

本件は、電子媒体としては、最高裁の判例データベースに掲載されているので全文をみることができる。
最高裁公式データベース

テキストベースは、判例ウオッチのサイトを引用しておこう。

また、原告側担当弁護士のブログもある。
http://bengoshi-teramachi.blog.so-net.ne.jp/2010-01-01

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