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2011年6月

2011/06/16

障害者虐待防止法成立へ(17日に成立しました)

 (法律は、17日に参議院で可決成立しております。その後、民主党プロジェクトチームの谷博之議員さんが談話を出しておられて、「この法律に基づき設置される市町村障害者虐待防止センター、都道府県障害者権利擁護センターに必要な予算の確保に努め、その設置・運営状況などを見守りつつ、上記の残された課題(医療・教育現場での虐待対応のことです:satosho)の克服にも引き続き力を尽くす」と述べておられます。ちなみに自民党側で尽力された馳浩議員や公明党の高木美千代議員もそれぞれご自身のブログで感想をのべておられます。関係議員の方々は感慨深いものがあるようですね。以下の文章は、16日のままです。(11/06/20 Mon))

障害者虐待防止法が成立しそうです。昨日の15日に衆議院を通過し、早ければ今週中には、参議院で可決成立の見通しです。施行は来年2012年の10月と報道されています。

 最初の提案から時間が経過しているので、いまこの段階で経緯を整理しておきたいと思います。
 
 まず、法案のこれまでの経緯については、AFCPさんがすでにブログにマトメておられます。
 6月13日のブログ
 
 また毎日新聞の社説もあります(おそらく野沢和弘さんの文章だと思います)
 6月14日づけ社説

 法案の中味や課題などについては、上記の二つの文章によくまとめてあります。

このブログでも2009年に1度取りあげています。て内容ないですが・・
http://www.satosho.org/satosholog/2009/07/post-a960.html

;今回、衆議院を通過した法案は、第173回国会で提案された原案ではありません。ずっと衆議院のサイトに掲載され続けていた案は、いわゆる自民・公明案でした。2009年7月9日に第171回国会での提案は、自民・公明案と民主案がそれぞれ正式に提案されていたのですが、173回国会では、自民・公明案だけが正式提案です。この時は民主党は与党ですから、実質的には、同時に民主党案も検討されており、この両案がずっと対峙しつつ成立を待っていたと思われます。今回は、自民・公明案は6月14日付けで正式に撤回、おそらく民主党案も事実上撤回されたのでしょう。そして同時に委員長提案で新しい案が提出され可決されているようです。(この箇所、加筆しました(11/6/16 Thu pm:18:16))
 とはいえ、内容的にはもともとの両案はほとんど変わりがなく、従前の民主党案と自民・公明案で一番明確な違いであった、虐待防止センター(権利擁護センター)を都道府県に置くか市町村におくのかという相違点を、「両方に置く」という形で統一をして委員長提案になったようです。

虐待はどこで起きる?--------------------
 障害者への虐待は、いたるところで起きています。この法案が議論されるきっかけとなったのは「カリタスの家」事件ですが、この事件の前にもアトにもいくつもの報道がくり返されています。その中で、このカリタスの家事件が衝撃的だったのは、この施設が発達障害者の療育の専門施設(県から県内唯一の専門施設であるとして事業委託を受けていた施設)であったことです。そこでヤケドするような熱いコーヒーを無理矢理飲ませるなどの信じられないことを、こともあろうに当時の施設長が行っていたことが発覚して大問題になったのでした。

 障害者の専門施設ですら、こんなコトが起きる中、殴る蹴る、強姦をする、などという事件がそれこそ毎年のように報道されているのです。私が権利擁護の活動に関わるようになったのは10年ほど前のことですが、当時、福祉関係者からこんな事件の話を耳に入れられると、なにかの間違いでしょう・・・と話をまず否定するか、それはよほど特殊なケースですよ、と例外扱いしてまともに取りあわないことがありました。いまでは、そんな話を聞いても驚きませんし、特殊だとは思いません。またか、でも、その場所では誰が対応すればいいんだろう、誰につなげばいいんんだろう、と対応に苦慮するだけです。そしていまだにうまく対応できない自分がもどかしく思っています。

 マスメディアに報道される事件は、施設であることが多いのですが、これは「目立つ」からで、虐待が起きているのは施設だけではありません。実態調査をしたレポートはまだそれほど多くありませんが、いくつかの先行調査を見ますと、家庭、学校、就労先、病院などなど、日常生活のいたるところで虐待が起きていることが報告されています。

先行調査を引用しておきましょう。
1)2009年に日本社会福祉士会が厚労省の助成を受けて全国調査をしています。
「障害者の権利擁護及び虐待防止に向けた相談支援等のあり方に関する調査研究事業報告」
下記のサイトから見ることができます。
http://www.jacsw.or.jp/01_csw/07_josei/2009/index.html
 これは、全国の相談支援事業所や就労・生活支援センターを対象にした調査で、988の事業所からの回答を受け、そのうち409事業所から966の虐待事例の回答あったことが報告されています(「平成20年度ベース)。
 この調査報告は、ご本人が18才から64才までの集計でまとめているところと、そうでないところがあり、把握が難しいのですが、18才から64才のところで誰が虐待しているのかという点で言うと、虐待する人は家族(親55%、きょうだい18%、その他親族7%)、使用者、事業者それぞれ3%となっています。   
 相談事業者に聞くと家族の虐待が多いという結果になっているようですね。

2)埼玉大学の先生が2008年にさいたまで調査をされているデータがあります。
 宗澤忠雄「成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査」やどかり出版(2008)残念ながら絶版です。
 この調査は、同一地域の事業者と行政の両方にアンケートをかけている点が特色です。
 双方から、事業者(50人の事例)、支援課(行政)(20人の事例)との回答を得ています。
 これも誰が虐待をしているのか、という点でみますと、事業者回答では:74%が家族。ほかに事業者14%であり、行政の担当課回答では、90%が家族。事業者/就労場所での虐待は報告されていません。
 集計数が少ない調査ですが、事業者の認識では、やはり家族の虐待が多く、ほかの場所でも少ないながらいろんなところで虐待はあるという回答であるのに対し、行政は家族の虐待以外は把握していない(把握しても報告できないのかもしれません:satosho)、こういう結果です。同一地域でのアンケートですから、なかなか興味深い結果です。

3) 次に1)の調査も2)の調査も成人期の年齢で見ていますが全日本育成会が2009年にご本人の年齢を考慮しないアンケート調査をしています。
 全国7市町村育成会を対象にしたものです。
「親・支援者から見た障害者虐待あるいは不適切な対応に関する実態調査」PandAJ 発行(2009年)
 これは、どこで虐待が起きているかでみますと、学校24%、登園登下校14%、勤務中、通勤時、福祉施設利用時、家庭の中がそれぞれ9%ぐらい、という数字になっています。
 アンケート調査の手法や対象が違いますので、1)や2)の調査と比較するのは適切ではないのですが、学校関連が多くなっている以外は、虐待はどこでも起きているという結果ですね。家族の虐待が多いという1)や2)の調査結果とは違っているようです。

 さて、以上の先行調査を前提にしますと、調査研究数は少ないながらも、また事業所や福祉施設での虐待は把握しないという行政の回答を別にして、「虐待はどこでも起きている」ということが分かるのではないでしょうか。誰かがとくに虐待を行っている、という話ではどうもなさそうです。ただ、専門職からみた場合、家族の虐待は多く把握されているとはいえそうですね。

家族の支援--------------------------------
 今回、障害者虐待防止法が成立することで、従前と一番変わる点は、「家族対応と支援」ができることだと私は思っています。福祉事業者や就労先ももちろん対応が必要な場所ではありますが、いまでもまったく対応ができないわけではないように思います。まったく対応ができずに、障害者本人が苦しみ、そして虐待をしているとされる家族もおそらく苦しんでいる「家庭」への支援が、法律で明記された点が、とても大きいと思っているのです。もちろん法律ができただけで、事態が大きく変わるわけではなくて、それにともなう人的・組織的対応が必要ですが、その端緒がとれる、これが大きな点かと思っています。

これから----------------------------
話を移して、厚労省では昨年3月に、障害者虐待防止法ができていない段階で、障害者虐待の防止にむけた諸施策を打ち出し、全国担当課長会議で配布しています。
障害者虐待防止対策支援事業 (WAMのサイトです)
 厚労省が、法律がなくても必要性を感じた、ということだと思いますし、関係者の努力も大いに評価したいところです。
 今回は、ようやく根拠法律が明確になるわけで、国、都道府県、市町村のそれぞれが積極的に動ける基盤が整備されることになります。大いに期待したいところです。

 なお、この法律ができても、課題は山積しています。たとえば、虐待主張に伴う紛議の解決やその手法や、学校や医療機関への規定が整備されていないことなどなお検討されなければならないでしょう。成年後見の利用も実際どうなるのか、成年後見制度それ自体が課題を抱えているので、これを利用すればそれで足りるというようなものではないとは思います。
 しかし、障害のある方々のその人なりの生き方を作り上げていく、お手伝いの基盤がいまより格段に充実することは確かです。ここ数日の国会での成立を望みます。

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