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2023/11/04

法律事務所という場所

 いまは昔、私が大学院の学生だった頃の話しである。尊敬する弁護士の方の事務所を見たくてひとりでぶらりとお邪魔した。
 その事務所は東京駅から1時間くらい電車を使った地方都市にある。いかにも地方中核都市といった趣の駅前から10分ほど歩いた商店街を突き進むと辿り着く、はずだった。
 今は珍しいアーケード商店街になっているそこは、両側に小さな店が建ち並び、結構な数の買い物客が歩いている。ところが全長1キロほどの小さな商店街の中を行きつ戻りつしても事務所の看板が見当たらない。ビルの三階だと聞いてはいたが、アーケードのために上は見えない。やむなく電話を入れて事務員の方に場所を聞いて見た。実際にはほぼ近くにいた。一階が小さなスーパーになっていて脇の階段から上に上がる。二階は喫茶店。三階が事務所だった。一階の入り口そばに申し訳程度のプレート表示があった。事務所に入るとその先生が笑顔で出迎えてくれた。
「先生、今日は」
「いやあ遠いところをようこそ、よくきたね。。すぐわかった?」
「ええ、なんとか。でもなかなか入り口を見つけるのに苦労しました」
「初めての人は、そうかもしれないね。」
「どうしてこんなに分かりにくいところに事務所を構えているのですか? 派手に宣伝した方が良いとは言いませんが、依頼者の方が迷いませんか」
「君は、法律事務所というものを知らないね。依頼者が迷うかどうかが問題なのではなくて、依頼者が入りやすいかどうかが、法律事務所にとっては一番、重要なことなんだよ」
「はあ、そうなんですか?」
「この事務所は、一階から上に行くときに、喫茶店に入るのか法律事務所に入るのかは分からない。つまり、依頼者が入るときは法律事務所ではなくて、喫茶店にお茶する感じで入ってこれる、これが重用なんだよ」
 なるほどなあと若者の私は思ったものだ。
 インターネットで検索をかけると今でもこの商店街は生きているようだ。でも尊敬する先生は鬼籍に入られた。40年ほど前の思い出だが、貴重な経験だった。
 この弁護士さんの考えからすれば、事務所を派手に写真でサイトに掲げるとか、ホームページで案内するとかは言語道断ということになろう。いま私は事務所を構えている。その時の教えを活かして、どこに行くのかわからないような隠れ家事務所にしている(笑)

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