平成25年成年後見関係事件の概況が裁判所HPに掲載されました,
◆成年後見関係事件の概況 平成25年1月~12月
昨年1年間の動向は、成年後見制度が2000年にスタートしてから、もっとも大きな転換があったと思われます。以下、概要を紹介します。
1)申立件数の微減
これまで申立件数は、ずっと右肩上がりで増え続けておりました。平成19年度が、平成18年度の集団申立の翌年であったため前年度比で大幅に減少していますが、17年、18年、19年と並べてみればやはり右肩上がりの傾向でした。それが今年は止まったのです。
後見開始,保佐開始,補助開始及び任意後見監督人選任事件を合わせたの申立の総数は合計で34,548件(前年は34,689件)であり,対前年比約0.4%の減少となっています。
内訳では、後見開始の申立件数が28,040件(前年は28,472件)で,対前年比約1.5%の減少。保佐開始の申立件数が4,510件(前年は4,268件)で,対前年比約5.7%の増加。補助開始の申立件数が1,282件(前年は1,264件)で,対前年比約1.4%の増加、任意後見監督人選任の申立件数が716件(前年は685件)で,対前年比約4.5%の増加となっています。後見類型だけが微減で、ほかは微増、とくに保佐が伸びています。これは選挙権裁判の影響も少しはあるのかもしれません。
申立が減ることは、私はほぼ予測していました。後見支援信託の利用強制を、親族後見の新規申立案件から管理継続案件(つまりすでに後見人になっている事件)にまで拡大したのを受けて、親族が申立をためらう傾向がでているのではないかと推測されるからです。この観点からは、むしろ予想よりも減らなかったなあと思っています。これはまだ拡大が始まって間がないからからしれません。もしそうだとするなら、平成26年度の概況では、さらに申立が減少すると予測されます。
2)高い認容率
申立に対する認容率は相変わらず高率です。成年後見関係事件の終局事件合計34,105件のうち,認容で終局したものは約94.6%(前年は約91.9%)で前年よりも高くなっています。
3)審理期間はほぼ横ばい
審理期間は、成年後見関係事件の終局事件合計34,105件のうち,2か月以内に終局したものが全体の約77.8%(前年は約80.5%),4か月以内に終局したものが全体の約94.8%(前年は約95.2%)であり,2ヶ月以内に終了したものが若干減っています。しかし、長期化したというほど長くなったわけではありません。
4)市町村申立の増加
市町村長の申立がさらに増えました。,5,046件(全体の約14.7%)で,前年の4,543件(全体の約13.2%)に比べ,約11.1%の増加となっています。地区別では、人口比において岡山の申立が多いのが目を引きます。
5)申立動機
申立ての動機としては,預貯金等の管理・解約が最も多く,次いで,介護保険契約(施設入所等のため)となっており、ほかに保険の受け取り、不動産の処分、訴訟手続、相続手続などがありますが、こういったものについての特別立法が行われれば、成年後見の利用は格段に減るものと思われます。
6)鑑定の実施は微増
鑑定を実施したものは,全体の約11.6%(前年は約10.7%)、前年度に比べて微増であり、期間については,1か月以内のものが最も多く全体の約56.6%(前年は約55.9%)を占めています。微増とはいえ、原則と例外が逆転している現象は変わりません。
微増の背景には、東京家裁が虐待事案を原則鑑定(虐待者からの不服申立にたえうるためだそう)にしたことがあるとの指摘があります。
7)親族後見人の減少
成年後見人等のなり手については、親族の割合がさらに減少しました。全体の約42.2%(前年は約48.5%)となっています。 第三者が成年後見人等に選任されたのは,全体の約57.8%(前年は約51.5%)で,前年よりも割合が増えています。
その内訳は,弁護士が5,870件(前年は4,613件)で,対前年比で約27.2%の増加,司法書士が7,295件(前年は6,382件)で,対前年比で約14.3%の増加,社会福祉士が3,332件(前年は3,121件)で,対前年比で約6.8%の増加となっています。弁護士の伸びが大きいですね。
8)市民後見人と法人後見
注目すべきは、市民後見人の定義が初めて入った点でです。「市民後見人とは,弁護士,司法書士,社会福祉士,税理士,行政書士及び精神保健福祉士以外の自然人のうち,本人と親族関係(6親等内の血族,配偶者,3親等内の姻族)及び交友関係がなく,社会貢献のため,地方自治体等が行う後見人養成講座などにより成年後見制度に関する一定の知識や技術・態度を身に付けた上,他人の成年後見人等になることを希望している者を選任した場合をいう」と記載されています。過去の集計は各地区の裁判所から市民後見人として報告されたものをそのまま集計したそうですが、今回からはこの定義にそって集計しているようです。もっともこれは、集計の便宜上の定義であり,市民後見人がこれに限られるとする趣旨ではない、との注がついていますが、一つの見解を示したものと言えます。
他方で、法人後見の概数がやはりでてきません。社会福祉協議会が560、その他法人が959とありますから、これの合算は1519です。前年度の数字が1,286ですから 、こちらもかなり増えています。市町村申立の増加より高率です。市民後見人より法人後見の方が、実際に担っている役割が大きいと言ってよいでしょう。
9)継続利用件数の総数
平成25年12月末日時点における,成年後見制度(成年後見・保佐・補助・任意後見)の利用者数は合計で176,564人(前年は166,289人)となっており,対前年比約6.2%の増加です。
内訳では、成年後見の利用者数が143,661人(前年は136,484人)であり,対前年比約5.3%の増加。 保佐の利用者数は22,891人(前年は20,429人)であり,対前年比約12.1%の増加、補助の利用者数は8,013人(前年は7,508人)であり,対前年比約6.7%の増加、任意後見の利用者数は1,999人(前年は1,868人)であり,対前年比約7.0%の増加となっています。新規申立が3万件近くあるなかで、継続案件の増加が1万件程度、ということは、2万人近くの方の利用が終了したことを意味しています。
10)後見制度支援信託
後見制度支援信託を利用するために,後見人が代理して信託契約を締結した成年被後見人及び未成年被後見人の数は532人(前年は98人)であり,信託した金銭の平均額は約3,700万円となっています。平均で3700万円ですから、利用した人の下限はもっと少ないことになります。1000万円程度でも利用を薦められることがあると聞いています。なお、532名という数字は対前年比では多いのですが、あちこちで聞く実感よりは少ないと思います。おそらく年が変わった平成26年度はもっと増えていると思われます。また、利用にあったてはまず後見等の監督人が職権で選任され、信託利用ののちに監督人は辞任、信託を利用しない人には、そのまま監督人等が職権が継続する扱いのようですので、後見監督人の選任事件が相当数にあがると思われますが、これがどの程度の数に上がっているのか、今回の概況ではまったく触れられていません。知り合いの弁護士さんや司法書士さんに伺うと、急激に増えていると思われます。
監督人の選任数、それから任意後見契約の登記数、この二つはぜひ概況のなかに入れていただきたいところです。